クラス一の陰キャラ女子の相葉場さんと付き合ってみた

涼野 りょう

プロローグ

「高見、昼休みに職員室にこい」


 そう言われて僕は今職員室に来ている。この学校の職員室は廊下と透明な自動ドアだけで仕切られている。中に入ると左手側にはカウンタ―を挟んで、先生たちが昼食をとっていたり、仕事をしている。右手側にはバーテンションで簡単に仕切られただけの面談スペースがある。


「お前、遅いんだよ。もっと早く来いよ」


 この面談スぺ―スには、僕と担任である田口の2人しか使っていないらしい。


「しょうがないですよ。先生とは違って暇じゃないんで」


「俺は暇じゃねぇよ。お前みたいな奴の面倒を見なきゃいけないし」


「先生も大変ですね」


 田口は面倒くさそうに言いながらも手元にある資料を真剣に見ている。そこにあるのは僕の成績とかが書かれた資料だ。


 田口は中学3年で初めて担任になった先生だ。他のクラスの担任と比べ若いほうで、髪にパーマがかかっていたり口調も砕けているから適当な人に思われているけど、その分生徒からは好かれているし信頼されている。僕もそのうちの1人で中学に入ってからの3年間で一番担任らしいと思った先生だ。


「まあ、いいや。早く座れ。それで?これからはどうするつもりなんだ?」


「どうするも何もこのまま進学しますよ」


 いま行われているのは一応は進路相談となっている。だけど、大学付属のこの学校では大抵の生徒には関係がなくて、ただ個人面談のようになってしまう。


「あー、それだけじゃなくて、もっと先の将来の事は考えてんの?」


「特には考えてないですよ。やりたいこととか夢とかがあるわけじゃないし」


 僕のような中学生も多いのかと思う。大人は将来の事を考えろ。とかいうけどたかが15年しか生きていない中学生にはそんなことが分かるわけがないし、答えを求められてもこたえられるわけない。


 実際に僕も勉強は赤点をとらない程度でしかやっていないし、部活も何となくでしかやっていない。そこには推薦点とかといった考えも多少はあるけど。


 だけど僕には今までもこれからも何かに熱中したりすることはないだろう。成功した人とかはほんの一握り。僕は絶対にそうじゃないんだから夢なんて持っていても仕方がない。


「部活とかはどうなんだ? 結構熱心にやっているけど。体育祭とかでも部活対抗リレーで高校生抜かしてたじゃねぇか」


「そりゃそうですよ。一応は陸上部員なわけですし」


 僕は陸上部に入っていているが僕の代が偶然少ないがために部長となっている。顧問の目からすれば僕が何となくでやっているがために口数が少なくなっているのを「まじめにやっている」のと勘違いしたらしい。普段はクラスの中で結構賑やかなグループにいることが多いからなおの事らしい。


「まぁ、お前は毎回成績ギリギリなんだからそこだけは何とかしてくれ。普段の授業とかを見ている限り頭が悪いっていうわけではないんだしよ」


「勉強とかはめんどいのでやりたくないんですよね」


「あぁ? なめたこと言ってんじゃねぇよ。とりあえず成績さえ良ければ将来大抵の事はできるから。俺とは違って……」


 ほかの先生からの評価は知らないが田口は生徒の事をよく見ているんだと思う。最後につぶやいたのは僕たち生徒の子守をさせられていることに対する疲れからなのだろうか。大人って大変だな。


 それでも、やっぱり僕はこの生き方は変えることはできない。なにかに本気になってやるとかいうことは面倒くさいから。ただそれだけではなくて、本気になるというその行為を忌む物のように扱う人もいる。その人たちに目を付けられたくないというのもある。だから僕は普段周りに誰かしらがいるようにしている。


 だからこそ、僕にはあの子が羨ましく感じられるのだと思う。普段1人でいてクラスメートからも煙たがれることの多くても生き方を変えないその少女は何か羨ましく思えたのかもしれない。




 田口との短めの進路相談を終えたけど、ほかの生徒は完全に外に出ていて思い思いにサッカーボールを蹴っては追いかけている。昼休みの40分間を、青春という短い時間を少しでも有意義にしようとしているのかもしれない。


 今さら遊びに入ることも何かいたたまれない気持ちになるので、適当にどっかで昼食をとろうと思い教室に弁当を取りに行った。教室には数人しか残っていなくて、僕が教室に入ると静まり返ってしまう。僕って嫌われている……!?


 学校指定のバッグを除いて弁当を探してみるけど、中には水稲と教科書、ノートが数冊は言っているだけだった。


「マジかよ……」


 そう呟いてしまったが、それに答えるのは誰一人としていない。仕方がないから教科書と一緒に入っていた1冊のライトノベルを持って教室へ出ることにした。


 ライトノベルをズボンのポケットに無理やり押し込んで廊下を歩いていると鬼ごっこをしている1年生を見かける。白髪が這い始めている先生はそれをみて不愉快そうな顔をするが何も言うことはない。それ以外特に気にするようなことはなかった。


 結局たどり着いたのは鍵を掛けることさえも忘れられてしまったような空き教室だ。「ここでいいか」と無理に自分を納得して入ったら、窓越しに聞こえてくるグラウンドの喧騒と長らく使われていないことからたまってしまったのであろう埃のにおいに鼻をしかめた。


 だけど先客にはそんな喧騒さと埃のにおいには無縁そうな少女がいた。その少女は小豆色の髪を背中のあたりまで伸ばしていて前髪も同じように伸びているからか顔は少し隠れている。それでも落ち着いた雰囲気のある彼女に似合っている顔をしている。


 その少女こそ僕が羨ましいとも思うあの少女だった。その少女は僕に気が付いたのか昼食をとっていた手を止めこちらに向いた。


「なんでしょうか? なにか御用ですか?」


「相葉さんか。暇をつぶせるところを探してただけだ。邪魔して悪かったな。」


 さすがに女子と2人きりで残りの昼休みを過ごす勇気は僕にはない。それも噂こそされないがかなりの美少女だ。それになんだか機嫌が悪そうだ。


 ここは早々に立ち去ってどこか別の場所を探すべきだろう。そう思った矢先、その少女、相葉夏海はこう言った。


「別に私は構わないですよ。誰かがが1人来ようが関係ありませんから」


「そ、そうか。それならお邪魔することにするわ」


 せっかく気になっていた女子と関わりを持てる機会だからご同伴することにする。椅子が少なかったために彼女の隣に陣取ることになった。それから持ってきていたライトノベルを読もうとしてみた。だけどそれは彼女の持つ弁当からの良い匂いに気をとられてしまう。

 相葉の弁当はデミグラスソースのかかったハンバーグを主菜にトマトやニンジンといった色とりどりの野菜が色を添えていてとてもおいしそうだ。


 グー―


 昼に何も食べていないこともあってか、思わずおなかを鳴ってしまった。


 その音が大きかったこともあってか相葉はこっちを見てくる。


「どうした?」


 何となく気まずくなったのと誤魔化す意味でそう聞いてみた。だけど今の音はさすがに言い逃れできないらしくて相葉は僕を睨むように見つめてくる。


 まつ毛長いんだな。と関係のないことを考えていると相葉は驚くことを言ってきた。


「お昼ご飯たべていないのですか? それなら私のを食べますか? 私も多く作りすぎてしまったので」


 どうやら僕は憧れの女子から昼ご飯を分けてもらえることになったらしい。


「本当にいいのか?」


「えぇ。先程も言った通り私には量が多すぎるので。少し作りすぎたのかもしれません」


 そう言って相葉は笑うがそんなことはどうでもいい。今、相葉は「作りすぎた」といったよな?ということはただ単に昼ご飯を分けてもらうだけではなくて、『手作り』弁当をもらえるらしい。

 

 相葉にそのようつもりがなくても僕としては意識せざるを得ないことだ。


「せ、せっかくだしもらうことにする」


 若干声が上がってしまったが問題はないだろう。

 

 そう思えていたのも束の間だった。相葉は綺麗なし草で箸をもち、ハンバーグを分けた。そしてそのハンバーグを挟んで僕の口の前に持って来た。


「え?」

「? 食べないのですか?」


 これって、『あーん』をしてくれているっていうことだよな!? だけど本当に口をつけてしまっていいのかと躊躇してしまう。それも憧れの女子からだから尚のことだ。


「早く食べてください。 この姿勢意外と疲れるので」

「す、すまん。」


 一応は謝ってから食べることにした。一度深呼吸をしてみる。


「あ、あーん」

「声には出さなくていいです」

「すいません」


 つっこまれてはしまったが何とか食べることができた。


「おいしい」

「そう、それなら良かったです。」


 一応は「おいしい」とは答えたけれども実際のところ味を気にするほどまでの余裕なんてなかった。ソースが甘口なのだろうか。そのハンバーグは甘い味がしたような気がする。

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