コナシミ
解場繭砥
なれそめて
「武蔵小杉をムサコと呼ばないでねぇお願い」
そんな非難をする少女に初めて出会った。特に武蔵小杉の住人でもないのに。
僕が無言で黙ると――つまり、ハイともイイエとも言わずに適当にやり過ごそうすると彼女はさらにまくし立てた。
「いい? JR南武線は、武蔵小杉から立川方面に向かって、『武蔵』のつく駅名が四つも続くの。武蔵小杉、武蔵中原、武蔵新城、武蔵溝ノ口。そんなところで安易に武蔵小杉を『ムサコ』なんて略したらどうなると思う?」
「――少なくとも宮本武蔵だったら八刀流になると思う」
瞬間殴られた。別に痛くはないが。
「うわ、最低。なんだこの暴力女!」
「最低はお前だ! わからないなら教えてあげる! 他の駅もムサナ、ムサシ、ムサミと呼ばなきゃいけないの! わかったか!」
「……呼べばいいじゃん」
「……えぇ?」
「ムサコ、ムサナ、ムサシ、ムサミ、われら、四人戦隊、ムサシコナシミ!」
ポーズを取ったところで今度はカバンで殴られた。
それが中学での、澄香とのなれそめであった。
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