第9話 幼馴染ちゃんやらかす。


 そうして俺が思いついたのは、それはそれは卑怯な作戦だった。


 合コンに行ってくれ、と頭を下げたところできっと早姫姉は首を縦に振らない。じゃあどうするか、嘘をついて、連れていくほかないだろうとも。


 けれども、とはいえ、but、Although、howeverである。


 早姫姉に教え込まれたおかげで、すっかり使い分けまで覚えた逆接たちが頭を占める。姉を騙すことで痛む良心が最後、俺を引き止めていた。


 お金はチャージした。中古なら五作ゲームが買える大金だったが仕方ない。

 早姫姉のプロフィールも入力した。

 あだ名欄には「さーちゃん」と、アピール欄には「居酒屋ごはん作れます! 得意料理は塩キャベツ」とばっちり書いた。

 そして申し込み画面までも進んだ。

 あとは決定ボタンひとつ、だがここへきて押そうにも押せない。夜もダメ、翌日の朝もダメ、で迎えた昼休み。


「うーん……」


 俺は、まだ画面と睨めっこをしていた。

 そうしながら自席で取るのは、ぼっち飯。早姫姉の作った、いわば「おつまみの残り詰めてみました弁当」を開く。

 斬新なコンセプトとはいえ、こうして弁当まで作ってくれる姉を騙すなんていかがなものか。

そう天使の囁きが空から降ってきて、俺が画面を閉じんとしたその時。


「よっ、幸太。また一人? 今日は玲奈いないから私に付き合ってよ」


 肩が叩かれ、手が滑った。


「うおっ!? 茜!?」


 親指が触れたのは、参加確定ボタン。恐る恐る指を離すと、


『本日七時、駅前バルでお待ちしております』


 こう画面が更新された。ご丁寧に『開催日が近いのでキャンセルはいたしかねます』と注記されている。俺は茫然とその表示を見るしかできない。


「えっ、なに。私なんかやった?」


 茜は目を何度もしばたいて、自分に向けて指を刺していた。


「……いや、茜は悪くないよ。うん。……うん」

「なに、どうした〜。落ち込んでる? ほんと大丈夫?」


 茜がくるんと巻いた前髪を垂らして、こちらを覗き込む。このままでいたら、むやみに心配をさせてしまう。


「大丈夫。むしろこれでよかったんだ」


 だから、にっと笑っておいた。

 それに、これはもうそういう運命だったということだ。神様が早姫姉を合コンに行かせたかったに違いない。


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