後日譚
俺とマリーは『アヴァンティ!』のカウンターに並んで腰かけていた。
こっちはいつも通りのバーボン。
向こうもやはり”いつもの”コニャックを舐めている。
彼女の話によれば、渚慶四郎とジョージ寺本の二人は、揃って『薬機法違反並びに性的暴行及び売春防止法』の容疑で警察にひっくくられた。
二人とも警察の取調室でさんざん恨み節と泣き言を並べ立てていたようだが、証拠を突き付けられては何も言えず、あっさりと罪を認めたという。
俺がやらかした『荒事』に関してはどういうものか不問に付されることになったらしい。
『
俺が言うと、
『あら、免許を止められて顎が干上がるよりはましでしょ?少しは私に感謝してほしいもんだわ』
彼女は口の端で意味深に笑った。
(蛇足だが、レッド・ローズの”ママ”については、俺は一言も喋らなかった。こっちにだって探偵としての仁義はあるんだぜ。約束だからな)
店の客だった女性たちは、あそこで知らず知らずのうちに薬漬けにされていた。
彼女たちは止めようと思っても、薬と料理の虜になっていて抜け出せない。
しかし幾ら何でも毎週というのはどうしたって金が続かない。
そこで”体のいいアルバイト”として”クラブ・パピヨン”で働かせるという、まあこういう訳だ。
それだけにとどまらず、あの『スタッフルーム』で行われた痴態の一部始終は隠しカメラによって捉えられており、奴らはそれを悪徳DVD業者に売りつけていた。
当然ながらそれらについても警察の手入れを受け、残らず押収された。
勿論、依頼人である広瀬良太郎氏には、ありのままを全て報告した。
俺が『クラブ・パピヨン』の事務所に踏み込んだ時、慰み者になろうとしていた女は、菜穂子だったことは言うまでもない。
良太郎氏は流石にショックを受けたのは事実だ。
しかし、女房に惚れぬいているんだろう。
”彼女も騙されたんですから、私の手で治して見せます”最後にははっきりそう口にした。
何でも今は心理療法を専門に行っている伊豆のサナトリウムに入っているという。
当り前だが、店は閉店だ。
つい昨日、前を通りかかったら、
”閉店”
と書かれた大きな札がぶら下がっており、管理会社の『無断立ち入りを禁ず』という張り紙までしてあった。
『ところで』俺は訊いた。
『ベルの具合はどうだね?』
『なんてことはないわ。彼女、あれからワインのボトルを2本開けて、今では当たり前みたいな顔してステージに立ってるわよ。これから店に行くんだけど、貴方もどう?』
『遠慮しとくよ。どうせ二人でこってりと愛し合うんだろ?邪魔しちゃ悪い』
『へえ、貴方って意外と気が利くのね』と笑い、またコニャックのグラスを開けた。
終わり
*)この物語はフィクションです。登場人物その他については全て作者の想像の産物であります。
改訂版・夢魔は水曜に囁く 冷門 風之助 @yamato2673nippon
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