第一章 カトウ、異世界転移する 5

【おめでとうございます。二日目ログインボーナス、エルフの皇女を受け取りました】

「――!?」

 突然頭の中に響いた女神の声に、カトウは飛び起きた。

 寝ぼけ眼で外を覗くと、外は微かに明るく、時計……は意味をなしていないので正確な時間は分からないが、今が早朝なのは確かだった。

「うう、痛い」

 カトウは昨日、ユミナに殴られたお腹を片手でさすりながら、再度ベッドに潜り込む。

 すると潜り込んだ先で、なにか柔らかいものが指先に触れた。

 柔らかい。

 それはカトウにとって、未知の感触だった。

 試しに揉んでみる。

 すると。

「んっ」

 カトウの動きに呼応するように、何やら艶めかしい声が、隣から聞こえてきた。

 カトウは瞬時にこれを理解する。

「ラッキースケベ、本当に実在していたのか……!」

 などと言いながら、カトウはその感触を楽しんでいく。

 ハーレム主人公において、必修科目になりつつあるラッキースケベ。

 それが実際に起こったのだ。

 カトウが興奮するのも無理もなかった。

 さらに言えば、これは服越しの感触ではない。

 生だ。

 生肌だ。

 なぜかはわからないが、ユミナは服を着ていないようだった。

 この謎を解明しない事には、カトウのこの手は決して止まらないだろう。

 カトウは夢中で、ユミナの胸を揉み続けた。

 ――しかしその瞬間、なぜかクラスメイトの小林君の顔が、カトウの脳裏を過った。


   ◇


「――ねえ、カトウ君。君は少年誌における、お色気シーンの短さに、苛立ちを覚えた事はないかい?」

 突然、一度も話した事がないクラスメイトの小林君に話を振られ、カトウは焦っていた。

 現在、カトウは教室内で別の友達と絶賛会話中であり、まさか前に座る小林君に話しかけられるとは、微塵も思っていなかったのだ。

 しかし、無視しては小林君に悪い。

 カトウは友達との会話を一時中断し、小林君の方を向いた。

「……え、ま、まあ、確かに、ちょっと短いかな」

 苛立ちを覚えるかどうかは別として、確かに少年誌における、お色気シーンは長くても数ページだ。

 思春期の少年にとってそれは、確かに物足りないといえば物足りないのかもしれない。

「僕はね、常日頃から思っているんだ! どうしてあと数ページ! あと数ページお色気シーンを続けてくれないのかとね! あともうちょっとでイケる筈だったのに、どうしてたった二ページぐらいで事を終わらせてしまうのかと! ハーレム主人公としての自覚を、彼らにはもっと持って欲しい! あとこの話をすると、大抵の人はエロ本を読めと言うが、それは大きな間違いだ! 少年誌で見るエロと、成人誌で見るエロは、全くの別物だと、僕は今ここで断言する!」

「ご、ごめん。俺には違いが良く分からないや」

 成人誌すら買った事がない十五歳のカトウにとって、この話はまだ早かった。

 それと、周りの目が非常に痛い。

「……いいんだ。悪いのは君じゃない。悪いのはこの世の中だ……。だからね、カトウ君。君がもしハーレム主人公になった時は、少しでもいい。少しでもお色気シーンを延ばしてほしい。僕から言える事は、それだけだ……」

 それは後に、カトウの師匠となる、二年前の小林君の言葉だった。


   ◇


 小林君の言葉を思い出し、カトウはすぐさま煩悩を払い落とした。

「……ありがとう、小林君。俺はあともう少しで、自分を見失う所だったよ」

 カトウはゆっくりと目を閉じる。

 そして次の瞬間、カトウは目を見開くと同時に、自分を戒めた。

 未だ揉み続ける右手を強引に左手で止める。

 その代償に、カトウは右手を強くつねってしまった。

 とてつもない大きな代償だ。

 カトウは額に浮かぶ汗を拭きながら、静かに呼吸を整える。

 あと二秒も揉んでいれば、カトウはこの快楽に呑まれていた事だろう。

 まさに、危険な状態であった。

 ――そう、ここで最も大事な事は、カトウ自らの快楽ではない。

 ここで快楽に呑まれ、安易に胸を揉み続けるなどという愚行を起こせば、たちまちユミナは目を覚ましていた筈だ。

 それはカトウと小林君の目指す真のハーレム主人公にとって、絶対にやってはいけない、とても愚かな行為であった。

 ハーレム主人公として、このラッキースケベの時間をより長く、より多く見る者へ提供する。

 それこそが、ここにはいない小林君とカトウの思い描く、ハーレム主人公のあるべき姿であった。

 カトウは静かに立ち上がった。

 さらにそのまま布団を引っぺがす。

「うう、寒いです」

「…………」

 すると現れた。

 なぜか衣服がはだけたユミナと、裸のエルフ美少女が。

「誰っ!?」

 思わず叫んでしまうカトウ。

 しかしすぐに、自分の口を両手で塞ぐ。

「んん…………」

「…………」

 危なかった。

 まだ二人は眠ったままだ。

 カトウはしばし二人を見つめる。

 ユミナは美しい銀髪の、おっとりとした美少女。

 出る所は出ており、十人中十人が振り返る、そんなレベルの美少女だ。

 今は目を閉じているが、青い瞳がなんともカトウの好みだった。

「…………」

 そして二人目は、なぜかベッドで寝ているエルフ美少女。

 そういえば先程、女神の声がカトウの頭に響いた。

 もしかしたらこのエルフは、女神から貰ったチート――ログインボーナスによるものなのかもしれない。

 いや、おそらくはそうだろう。

 ちなみにエルフの容姿は、少しギャルっぽい美少女で、全ての栄養が胸にいっているんじゃないかというぐらいにデカかった。

 エルフはスレンダーなイメージが強いのだが、やはり個人差があるのかもしれない。

 というか、さっきまで揉んでいた胸は、どうやらユミナではなく、このエルフの胸だったようだ。

「…………」

 しかし、エルフにはなにかが足りなかった。

 確かに裸はエロい。

 だがなにかが引っかかる。

 カトウはしばし考えた。

 こういう時のカトウの頭の回転は速い。

 そして閃く。

「そうか! 靴下だ!」

 声を抑えてカトウはそう口にする。

 カトウはリュックサックから急いでハイソックスを取り出した。

 いそいそとハイソックスを、目の前のエルフに穿かせていく。

 すると心なしか、エルフの魅力が百二十パーセント上昇したような気がする。

 しかしまだ足りない。

 なんだ……なにが足りないんだ……

 カトウは想像力をフルに稼動させた。

 考えろ!

 考えるんだ!

「……ハッ!」

 そうか!

 わかったぞ!

 カトウはリュックサックからコスプレ衣装を取り出した。

 それはエルフにとって、ワンサイズもツーサイズも小さい、魔改造されたスクール水着。

 その水着はファスナー式になっている為、脱がしやすい着せやすいを実現させた、最強のスクール水着であった。

 カトウはそれをエルフに着せていく。

 ついでにユミナには猫耳を付けてあげた。

「んん、ぐるじい」

 何やらエルフが苦しそうだが、カトウは一向に気にしない。

 大の為には小の犠牲も、時には必要なのだ。

 そしてエルフの着替えが終わった。

 完璧だった。

 完璧なエロが、今ここに実現した。

 ワンサイズもツーサイズも小さい事により実現した、飛び出さんばかりに誇示された大きな胸元。

 下半身からは艶めかしい太ももが飛び出し、そのエロさを強調している。

 カトウは満足した。

「これで俺も、少しは真のハーレム主人公に近づけたかもしれないな……」

 そんな事を呟きながら、カトウは朝食の準備へと台所に向かった。

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