第9話 ポーター式建築術
「さあ、先生! 今日はどんな依頼に行きますか!?」
「あの依頼なんてどうでしょう? オーガの群れの討伐依頼です!」
フロストワイバーンの討伐の翌日。
ギルドのエントランスを訪れると、すぐさまレイドルフたちが駆け寄ってきた。
そうだなぁ、昨日は討伐依頼をこなしたことだし……。
別種の依頼をこなすのがいいんじゃなかろうか。
「これなんてどうだろう?」
「え? 防壁の建築工事……ですか?」
「な、なんで!?」
怪訝な顔をするフォルトナとレイドルフ。
特にレイドルフは、俺との距離を詰めてきて明らかに不満げだ。
眉がすっかりへの字に曲がってしまっている。
「壁の工事なんて言ったら、時間もかかれば割も悪い依頼じゃないか!」
「ああ。けど、討伐ばかり受けていたら疲弊しちゃうからね」
「それもそうだけど、こういうのは初心者がやる仕事で……」
「この依頼に人気があるなら譲るべきだけど、そうじゃないだろう? 端が破れてるし」
恐らくは、ずーっと放置されてきた依頼なのだろう。
依頼書はかなりくたびれていて、端が少し切れていた。
余裕があるときには、こうやって残ってしまっている依頼をこなすのも冒険者の責務だ。
「……けど、工事か」
「あの『空色の剣』だって、Bランクになるまでは結構こういう依頼を受けてたんだよ? さすがにそれ以降は、受けるのを自重するようになったけどさ」
「魔女アマリア様もですか!?」
「うん。人とのコミュニケーションを鍛えるいい機会だとか言ってたよ。雑用依頼で街の人とつながっておくと、あとあといろいろ役に立ったりするし」
こういうところで出来る人脈って、案外馬鹿にできなかったりするんだよね。
前にお屋敷の修理の依頼を請け負ったことがきっかけで、貴族と知り合いになったこともある。
まして、今の俺は竜賢者ノジャリス様について情報を得なければならない身だ。
みんなも人脈を持っておけば将来的に役立つだろうし、引き受けて損はない。
「……先生がそういうのならば、引き受けるとしよう。世界一の冒険者にも、下積みが必要だからな!」
「レイドルフ、そういうノリはやめたんじゃなかったの?」
「うるさいな! フォルトナこそ、急に常識人ぶるなよ! 恥ずかしくなってくるじゃないか……!」
「私は元から常識人よ」
「自分で美少女って言うのにですか?」
「事実だからいいのよ、事実だから」
スージーさんの突っ込みに、超然とした態度で言い返すフォルトナ。
アマリアもいろいろと個性の強い人だけど、フォルトナもなかなかだなぁ。
魔導士はこういうタイプの人が多いんだろうか。
「とにかく行きましょうか。早い方がいいですから、こういうのは」
こうして俺たちは、町の外側に広がる防壁へと向かったのであった。
――〇●〇――
「あ、ノリス! あなたも来たのね!」
現場に到着すると、リリーナさんが声をかけてきた。
その様子を見たレイドルフたちが感心したような眼でこちらを見る。
やはりリリーナさんは、この町の冒険者の間では憧れの人物らしい。
「そこの三人は、パーティの子たちかしら?」
「は、はい! 初めまして、レイドルフです!」
「私はフォルトナ、よろしくお願いします!」
「ス、スージーでしゅ!」
「こちらこそ、よろしくね」
緊張した面持ちの三人に、鷹揚な態度で接するリリーナさん。
こういうことはよくあるのか、なかなか慣れた様子である。
さすがは街の有名人だね。
「あなたたちも、工事の護衛に来たの?」
「いえ、俺たちは工事に参加しに来たんです」
「その実力で……工事を?」
「ええ。町の人との交流を深めることも大事ですし」
「別にそれなら、他の依頼でもいいような……?」
コクンと首を傾げるリリーナさん。
彼女と話しているうちに、現場の責任者さんが到着した。
彼に呼ばれた俺たちは、すぐさまリリーナさんと別れてそちらへと移動する。
「お前たちが、依頼で来た冒険者か?」
「はい、そうです!」
「じゃあ、とりあえずそこにある石レンガを指定の場所へ運んでくれるか?」
責任者のおじさんが指さした先には、うず高く積まれた石材の山があった。
小屋一軒分ぐらいの体積はあるだろうか。
さすがに町全体を覆う防壁を作ろうとしているだけあって、材料もすごい量だ。
「うわ、結構ありますね!」
「こりゃなかなかきつい依頼になりそうだわ」
「でも、こういうのをコツコツやるのもいいですよね!」
「そうだね。汗を流すのも大事だよ」
魔物の討伐ももちろんハードだが、肉体労働の方が筋力を使うことも多い。
特にレンガ運びなんて、足腰のいいトレーニングになりそうだな。
「できるだけ早く頼む。台車はそこにあるぞ」
「わかりました……どっこいしょ!!」
俺は石材の山に近づくと、身体強化を全力で掛けてそれを持ち上げた。
む、単一の石じゃなくて石レンガの塊のせいか崩れないようにするのが大変だな。
俺は山を背中に回して面で支えるようにすると、指定された場所に向かって歩き出す。
すると――。
「ええええええっ!?」
すごい叫びをあげる三人とおじさん。
遠くで周囲を警戒していたリリーナさんまで、こちらを見てぎょっとした顔をしていた。
あれ? 別にこれぐらい、冒険者なら普通じゃないか?
特に俺みたいなポーターの場合、このぐらいの重さを運べないと仕事にならないけど。
俺はそのまま指定の場所に石材を置くと、軽く肩を回しながら訪ねる。
「次は何をすればいいですか?」
「いや、頼もうとしていた仕事はそれだけだ……」
「ええ!?」
ちょ、ちょっと!
これでおしまいって逆に暇すぎるよ!?
荷物持ちの俺が最強であることを俺だけが知らない件 ~自らを落ちこぼれと勘違いした最強少年の無自覚無双~ kimimaro @kimimaro
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