【二次創作】昏くて、明るくて、眩しい。

TETSU

ハクサイちゃんは、かわいい

   ◆


 サンドイッチを頬張りながら、私はハクサイちゃんとお話をしていた。

 ハクサイちゃんのランチも私と同じくサンドイッチなのだけれど、ハクサイちゃんのサンドイッチにはキャベツの代わりに白菜が挟まれていた。変だなあ! と思っていると、そのことにハクサイちゃんは気がついたらしい。


「もう、お母さんったら困っちゃうよ。キャベツじゃなくて白菜を挟んじゃうなんて!」


 白い芯を赤く染めながら、わざとらしくぷりぷり怒り出すハクサイちゃんを見ながら「かわいいなあ」ということばかり考えていた。

 ハクサイのお弁当が毎日手作りなことを私は知ってるんだ。


 ハクサイちゃんは、かわいい。

 でも、ハクサイちゃんの顔ってこんなに白かったっけ?


 白菜頭のハクサイちゃんが白菜入りのサンドイッチを頬張りながらぷりぷり怒っているのはとても変なことのように感じたけれど、ハクサイちゃんがとてもかわいらしいのでそのうちにどうでも良くなってしまった。


 ランチを食べ終えると私たちは帰宅する準備をはじめた。そこに仲良しのシイタケちゃんとネギちゃんとダイコンちゃんも加わって、私たちは五人で楽しく下校した。


「今日の部活も疲れたあ」


 シイタケちゃんはくたびれたように両方の肩をぐるぐると回した。パーカーのフードがばさばさと波打つ。


「お疲れ様、●●ちゃん」

「つかれたよー。つかれたからこっち来て!」

「ひゃ! ●●ちゃん、また急に……」

「はー、癒されるわー」


 労いの言葉をかけてシイタケちゃんに掴まったのはネギちゃんだ。セーラー服がよく似合う。

 それにしても相変わらずシイタケちゃんのことをどう呼んでいるのかだけは聞き取ることができない。本当はシイタケちゃんの名前はシイタケちゃんではないし、ハクサイちゃんもハクサイちゃんという名前ではないのかもしれない。

 でも知り合ったときから私は皆のことを見たまんまで呼んでるし、それで特にこれまで問題は無かったので別に気にしなくて良いのかも?


 シイタケちゃんもハクサイちゃんもネギちゃんも、私の大事な友だちだ。

 もう一人、ダイコンちゃんもちゃんと私の大事な友だち。ダイコンちゃんは私たちの間で一番スタイルが良くて、おしゃれでかっこいい。いつもクールだけど意外と寂しがりな一面もあって、今もシイタケちゃんとネギちゃんのやりとりを見ながら何も言わずにハクサイちゃんの頭をわしわしと撫でていた。


「なんで撫でるの! もう!」


 ハクサイちゃんが小動物のようにころころと抵抗するのがまたかわいらしい。見ているとつい笑みがこぼれてしまう。

 それでもダイコンちゃんの顔はすごくクールだ。表情は読めないけれど。


 静かで、暗くて、寂しい街並み。私たちの他には誰もいない。

 灰色の後者を背に、私たちはゆっくりと歩いてゆく。


  ◆


 そんな風に下校していると、また違和感を覚えた。それは違和感と呼ぶにはあまりにも淡かったので皆でおしゃべりしているうちに忘れてしまうくらいだけれど、後で思い返すとやっぱり変だったなあとなるようなものだ。


 今日二回目の違和感は、下校している私が今日の学校で起きたことを何も覚えていないということだ。覚えていないどころか、学校で何もしていないようにすら感じる。ただハクサイちゃんとご飯を食べて、五人で楽しく下校しているだけなのは変だ。


 例に違わずそんな疑問は皆と別れてから独りで膨らませた妄想のようなもので、私が夕食をつくりながら適当にあれこれと考えている内の一つにすぎない。

 今晩の献立はお鍋だ。

 椎茸に葱、お豆腐、白滝、えのき。好きなものを入れられるからお鍋は好きだけれど、結構皆同じ具材になりがちだよなあ。


「あ、危ないよ」


 土鍋の下でちょろちょろと動き回るハリネズミのうにぐり君に呼びかけてから片手で雑に持ち上げる。土鍋の淵に乗せてやると、具材の葱を船にしてお鍋に浮かび始めた。


「もう、しょうがないなあ」


 うにぐり君はもう放っておくことにして、お鍋を食べてしまおう。

 煮えた葱を口に運ぶとき、どうしてかネギちゃんの顔が頭をよぎった。


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