PHASE 9 :神々の残されし者と英国面







 戦女神、そう書いてワルキューレ


 北欧神話の死神、勇士をヴァルハラに導いていた者達

 残念ながら、もうこの世には数人しかいない。





「むむむ……!」



 今、デスクトップパソコンに向かって呻いているオフィスレディーな銀髪の美人こと、『神々の残されし者』という意味の名前のレギンレイヴもその貴重な戦女神の一人、


 現在肩書きは、セクター4のもう一つのトップ『経理管理責任者』ではあるが、



「M-フォースの書類がまた間違えている……!!」



 みんなから、「経理のレギンレイヴさん」と呼ばれている苦労人だった。


「使用した弾薬の数と、返却された薬莢の数、紛失した数が合わない……

 はぁ……この前は返却空薬莢と一緒にコーラの瓶が入っていましたし……」




 彼女以下、事務方の仕事は重要である。


 まず、膨大な消費が前提の弾薬の補充がある。


 前提条件として、弾薬は消費した分補給しなければいけない。


 次に、弾丸を作る工場の能力と、そこからどれだけこちらのセクターに回してもらえるかを把握しなければならない。


 死神の使うデスサイズ弾は、本来銅合金で覆った鉛の弾頭の、コーティング部分を冥府という最後に魂が辿りつく場所で撮れる金属と、割と魔法の得意な死神達の呪術と魔力を込めて初めて出来る。


 十分な数揃えられるようにはなっているが、油断はできない。


 何より、口径が違う銃、ならまだしも……


 死神の世界はまだミニエー弾も三八式実包も現役なのだ。


 人間の世界では生産終了している弾丸も揃える必要がある


 さて揃えたら次は置き場の管理である。

 ただ置いとけばいい訳ではなく、どれが使用されて、どれだけ消費されてが分かるようにしなければいけない。


 これが分からない倉庫は、積みプラの積み上がったモデラーの部屋と同じである。

 同じ物2個買っても平気なモデラーでは、軍事組織は運用できない。


 そして、その倉庫の鍵と管理を担うのが、このレギンレイヴがいる場所。


 セクター4、総合補給所なのだ!




「うー……また、第5小隊ハンティングクラブの書類が白紙で提出されている……!」




 でも現場の人間はそういう裏方の事情を知れる頭の良さを持ち合わせていないのは当たり前の話である。



 第1小隊『M-フォース』は練度の高い優秀な兵士たちだ。

 だが、帰ってきた時には大抵疲れ切っているか帰り際にお酒を飲んでいるかで、書類はまぁ書いてくれるがそこそこミスが多い。


 第3小隊『カラシニコフ・ファミリー』は1ヶ月ぐらいまとめて書いて出してくるので勘弁して欲しい。

 まぁ大抵書いてウォッカ呑んで気がついたら朝のロシアンウェポンでは……出してくれるだけありがたい。


 まず出撃することの稀な第4小隊『アースディフェンダーズフォース』は、そもそも桁が違う武器ばかりで胃に悪い。



 そして第5小隊、


 『ハンティングクラブ』は、ならずもの共。



 書類も当然、中学生が頑張って書いたような物でもマシ。

 小学生が適当の書いたようなのも平気で出れば、挙句幼稚園児の落書きが提出される。



 まぁ、まだいい。


 まだ許せる。




 ボォォォォン!!!!




 そこまで考えた瞬間、建物全体が揺れるような爆発音が響く。


 一瞬呆気に取られた顔になるが、すぐに音の方向に気づく。


「…………まさか……また!?」



           ***


 総合補給所の隣、わざわざ2階や3階や倉庫にも連絡通路のある施設。


 ドーム型の何やら宇宙にでもありそうなデザインのそこは、正式名称『セクター4死神用銃器及び周辺機器先進開発研究所』。



 またの名を『英 国 面ブリティッシュサイド』。


 全セクターにその悪名高き、たまにすごいことをするけど大抵迷惑な『ブリティッシュサイド』である。






「おーっほっほっほっほっほ!!!!


 だーから言ったではないですかぁ〜〜???

 スイスみたいなど田舎製のトグルアクションなんて物で確実な動作なんてしません物なのですわよ〜〜!!!」



 爆発で煤けた金髪ドリルヘアーをたなびかせて大いに笑うどこか悪役令状ちっくな彼女、





 G.W.S.所属死神:『EM-2』

 銃種:試作型プルバップアサルトライフル

 弾種:.280ブリティッシュ弾

 TACネーム:『レディプロット』

 役職:『ブリティッシュサイド』研究員


 座右の銘「クソど田舎の無駄パワー弾を採用したアメリカは永久に絶許ですの」





「ちーがーうーもーん!!!

 トグルアクションに不備はないもぉぉん!!!

 歴史に抹消された弾丸なんか参考にしたから反動が少なくて暴発しただけだもぉぉぉん!!!」


 地団駄を踏むちょっと幼い感じのするツーサイドアップな彼女は、




 G.W.S.所属死神:『MP41/44』

 銃種:トグルアクションサブマシンガン

 弾種:9x19パラベラム弾

 TACネーム:『フラン』

 役職:『ブリティッシュサイド』研究員


 座右の銘「トグルアクションの時代はまだ終わってないもん!」





「何ですってこの言うに事欠いて!!!

 ハイパワー信者はベトナムで皆くたばれば良いのですわ!!!

 スイスみたいなヨーデル奏でて踊ってるようなど田舎の全時代的閉鎖機構の癖に!!!」


「ガトリングだって復活したもぉぉぉん!!!

 期待されてた未来の銃とか言って、お前らプルバップは軒並み欠陥銃なのにぃぃぃぃぃ!!!」


「ムキー!!言うに事欠いてわたくしの可愛い可愛い後継機の悪口までぇぇ!!!!!」


 ポカポカ殴り合う二人の死神。

 もう何度目かの光景である。


「いやっはっはっは!!喧嘩はよしたまえ二人とも!!

 やっぱりバネの力が弱すぎたかな!!」


 そして、煙の中から背の高いスタイル抜群で煤けながらもどこか気品のある格好の短い黒髪美人が現れて笑う。




 G.W.S.所属死神:『PIAT』

 銃種:対戦車擲弾発射機

 弾種:専用対戦車擲弾

 TACネーム:『ミス・チャーチル』

 役職:『ブリティッシュサイド』所長


 座右の銘「どんなに駄作でも今そこにあって使える兵器が重要なんだ」




「チャーチルおば様!!そんな……おば様が悪いことなんて!」


「そうだよ!!チャーチル所長!!

 そこの設計じゃなくって!!」


「「コイツの設計が悪い!!


 なんだってですってぇ!?!

 言うに事欠いてぇ!!!!!」」






「どっちにしろ気軽に研究施設を爆破しないでくださいッッ!!!!」





 バキャ、とワルキューレの槍で開かない扉を貫いて、レギンレイヴは心から叫ぶ。


「「…………」」


「うぅ……」


 そして、そのまま槍の先で貫いたドアをぶら下げたまま、泣き出すレギンレイヴ。


「「「ごめんなさい」」」


 喧嘩していた2人も、チャーチルも頭を下げて謝ったのだった。





 ガコン、プシュー……


 とそのタイミングで奥の物々しい金庫じみた扉が開く。


「うるさい。まだおねむの時間」


 ひょこ、っと出てくるは、どことなく司令官のブラッキィに似た顔のボサボサツインテールの少女。




 G.W.S.所属死神:『AR-10』

 銃種:バトルライフル

 弾種:7.62×51mmNATO弾

 TACネーム:『ストーネ』

 役職:『ブリティッシュサイド』研究員


 座右の銘「人間は説明書も見ないし専門家の言葉も聞かないし誰も正しい使い方なんてしない」





「もうすぐお昼ですわよ、NATO弾使い」


 ある意味、ストーネはプロットにとって一番嫌いな人間だった。


「ストーネ、夜型だからもうちょっと寝てたかった。

 またパンジャンドラムみたいな失敗した音で起きたの」


「っ……あーらごめんなさいね?

 てっきりアルミ合金製の銃身が破裂した音ぐらいなら起きないと思いましたのよ」


「まぁストーネそのぐらいじゃ起きない」


 と、嫌味の返しもどこ吹く風、対爆冷蔵庫からコーラを取り出して栓を開けてグイッと飲み始める。


「チッ……どうしてこうしてここは田舎者ばかり……!!」


「まぁまぁ、機嫌を治した前って」


「イライラは行けないと思う。

 コーラいる?」


「結構!!アメリカ製品は死んでも口をつけません!!」


「これ日本製」


「あ、では一本。日本は良い国ですの」


 良いのか……と思ったが普通に飲むプロットだった。


「……で?」


「でって?」


「そっちは順調ですの?」


「モチのロン」


「はぁ……こっちは『プランB』がトグルアクションのせいで失敗ですわ」


「ブリティッシュ弾参考はダメだったんだよ」


「「なんだってぇ!?!」」


「どっちもダメ。あと多分、所長のバネもダメ」


「やっぱりダメかー」


「もぉおば様!!」


「ちょっと皆さん!!

 最近、妙なパーツやら、規格内とはいえ砲弾の発注やら、挙句この前はレアメタルに洒落にならない毒性の薬品を発注して一体何をしているんですか!?!

 ちゃんと書類を書ける物ですよね!?!」


 おぉ、とレギンレイヴに答えるチャーチル。


「もちろんだとも!!

 もう完成はすぐそこだ……ストーネ、どうだ?」


「こっちは、完成。テストだけ」


「そうかそうか!

 ではミス・レギンレイヴ、こちらを見てくれ!!」



 と、近くの天井から伸びる紐を引っ張るチャーチル。

 ガタガタとアナログな音を立てて、締まっていた隔壁が開くと……そこには、





「これは……!!!」





 そこには、


 大きさでいえば2mはある巨大なリボルバーハンドガンがあった。



          ***

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