PHASE 6 :セクター4の死神達





「わぁ……!」


 格納庫、と言うよりは、



 古今東西、レシプロからジェットまでの航空機、

 さらには軽・中・重、巡航、歩兵戦車からMBTまでの戦車が、

 いやいや、ヘリから輸送用車両、お洒落なスポーツカーから二品の軽まで、



 博物館、と言ったほうがいい。



「私物、自分が搭載された車両まである、です」


「すごい規模だ……」


「大半が、第5小隊『アースディフェンダーズフォース』の物。

 大半の仮想敵は、通常火器でも対応可能とは言え、どうしたって『デカすぎる』『強すぎる』相手はいる、です。

 幽霊でも集まれば『がしゃどくろ』っていう怪獣じみた奴にもなる。

 そこまでいくと、装弾筒付翼安定徹甲弾APFSDSタイプのデスサイズ砲弾か、炎獄の素材製の成形炸薬HEATが必要。


 彼女らはそういうのが専門です」


「あ!バルカンお母さーん!!お疲れ〜!!」


「あらぁ〜!!!ミニーちゃーん!!!

 そっちもお疲れ様〜!!!!」


 と、遠くでF-18を調整していた美人な死神が、ミニーを見かけて大きく手を振ってきた。




 G.W.S.所属死神:M61

 銃種:機関砲

 使用弾:20×102mm

 TACネーム:バルカン

 役職:第5小隊『アースディフェンダーズフォース』隊長






「お母さん……?」


「あ、あのね?

 ミニガンとバルカンは、親子みたいだねって言ったらね?バルカンさんお母さんって呼んでいいって……」


「技術の系譜では姉妹みたいな物だからな、です」


「ここのバルカンさんはとっても良い人なんだ〜♪

 あ、でも今は仕事中だから挨拶だけだよ!」


 胸を張って言うミニーを、遠くからまさに親バカの様な顔で、周りの同僚と恐らくミニーの事を語っていそうなバルカンが見える。

 PSG-1は奇妙な、とは思ったが微笑ましさの方が勝ったので何も言わなかった。


「家族か……」


 ……で終わりたかったが、つい呟く。


「感覚が分かりにくい?」


「確かに……私もG3系列の銃ですけど、G3を『姉さん』だの言う気はないもので」


「まぁ、これは個人の趣向。

 私やミニーのように家族を欲するヤツもいれば、同じ系統の銃でもライバルや友人になりたいヤツもいる、です」




「だが家族とはいい物だぞ、新兵!!」



 と、横からやたらデカい声が聞こえてくる。



「魂を、血を、何より機構を分けて生まれた存在を大切にする!

 それもまた意思を持ったものだけが持ち得るものだ!!

 何より毎日退屈はしないぞ!!あっはっは!!」



 やってきたのは、雪のように白い髪に血のように真っ赤な目の美人。

 それが豪快に笑ってやって来る。


「ミカエラ……!

 任務終わりか、です?」


「残念だが同志!


 完全に寝坊した!!

 すでに我が第3小隊『カラシニコフファミリー』は任務地へ言ったのだろうな!!」




 G.W.S.所属死神:AK-47

 銃種:アサルトライフル

 使用弾:7.62×39mm弾

 TACネーム:ミカエラ

 役職:第3小隊『カラシニコフファミリー』隊長




 豪快に笑うが笑い事ではなかった。


「……また、AKMアレキサンドラに迷惑をかけるのか……」


「安心しろ!!そのアレキサンドラも、予備弾装忘れて行ったからな!!

 我が家族はやっぱりどこか抜けているから家族なのだ!!」


 やっぱり笑うが笑い事ではない。

 ああ、この構造上の隙間とかわざと精度を甘くしている感じはまさにカラシニコフだ……などと思うPSG-1だが言わない。


「で、なんで寝坊したんすか?」


 今まで大人しかったチャイナレイクがつい直球で質問してしまう。


「うむ、新人よ。

 実は、そっちの部隊の『シェリフ』と呑んでたところまでは覚えているのだが、気がついたら全裸で空の瓶を抱えて部屋のベッドと床の隙間で寝ていたのだ」


「えぇえ!?!」


「驚くよな新人。

 これが第3小隊の平常運転」


「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?」


「うむ!

 ついでに言うと、昨日は全員飲んでいたし、多分全員全裸で自室に倒れていたと思う。

 証拠に、物毛のからの小隊宿舎は鍵は開けっ放しでパンツやら制服の上やら忘れていっているようだったからな!」


「……大丈夫なんすかそれ……?」


「任務には問題ない。

 あ、だが弾装は届けて来るぞ!!きっと必要だからな!!

 それでは、新人達よ!セクター4へようこそ!!

 あっはっは!!」


 と言って走り去るミカエラ。

 なんだか怒涛の疲れる情報ばかりだった。


「…………」


「あれで、任務はちゃんとこなすんだ、です」


「ロシア製って……」


「──オイ!!ナイファーじゃねーか!!良かった探したぞ第2小隊の!!」


 と、今度はまた別の方向からやって来る影。

 見れば、G.W.S.の黒い制服ではなく、ウェスタンで開放的でややエッチな露出の格好の金髪の女が、何やら誰かをおぶってやって来る。


「ジェーン?それに……あ?!」



 G.W.S.所属死神:『ソードオフ水平2連ショットガン』|(原型不明)

 銃種:ショットガン

 使用弾:12ゲージならなんでも

 TACネーム:ジェーン

 役職:第4小隊『ハンティングクラブ』の1人






「そうだよ、分かったらさっさとこの婆さんを受領してくれよ!」


 彼女が背負う、銀色のクセっ気ある髪にG.W.S.のバッジ付きテンガロンハットの熟睡している女性が1人、





 G.W.S.所属死神:『コルト シングルアクションアーミー』

 銃種:リボルバーハンドガン

 使用弾:.45コルト弾

 TACネーム:『シェリフ』

 役職:第2小隊『バレットエキスポ』隊員





「シェリフ婆さん……全く、世話をかけたな、です」


「まぁミカエラと違って脱いで暴れるよりはマシだけどさー!!

 全く、私らの拠点なのにこの婆さんの方が長くいるよ、ほら」


 と、乱暴に渡された寝ているシェリフを受け取るナイファー。

 じゃあね、とジェーンはすぐに踵を返す。



「…………水平2連ショットガン……ウィンチェスターのどれかで?」


「多分。本人も分からないらしい、です」


「すっごい古い感じのソードオフっすね……」


「その骨董品、魔改造品、民間向け銃出身のアウトロー死神をまとめて第4小隊扱いにしているのが、『ハンティングクラブ』。

 賞金稼ぎ感覚っていうのはなんか変だが、意外とちゃんと任務はこなしている口だけじゃないヤツら、です」


「…………骨董品か」


 ふと、PSG-1は、シェリフの腰の『骨董品』に弾が入れっぱなしなのに気付く。


「……危ないな、安全装置も付けず」


 と、つい手が伸びるPSG-1。




「やめときなお嬢ちゃん?」




 しかし、気がつけばそのSAAの銃口は、自分の額に当てられていた。


「他人のホルスターの銃に手ぇ伸ばすと、怪我すんぜぇ?

 オイラの引き金が軽くなくて良かったなぁ、お嬢ちゃん?」


 気がつけば、ナイファーの上でテンガロンハットを抑え、シェリフがこちらを見て笑っている。


「な……!!」


(見えなかった……!?)


 クルクルとSAAを回してホルスターに納め、よっと言って背中から降りる。


「んん〜〜〜〜!!よく寝たぜぇ。

 よ、ナイファーの嬢ちゃん。今何時だい?」


「日本時間は、午前9時。

 珍しく早起きだな、です。婆さん?」


「やれやれ、あのロシア娘の量に合わせて正解だぜ。

 で、この垢抜けない嬢ちゃん二人は?」


 垢抜けない、と言われて複雑な顔をするPSG-1達だが、特にフォローもなくナイファーは続ける。


「そっちのすましてるデカいのがPSG-1、スナイパーライフルで、ナンブと同じ警察用。

 そっちの元気そうなのがチャイナレイクモデル。ポンプアクションのグレネードランチャーという珍しいヤツ、です」


「警察用!じゃあなんだい、オイラキップ切られた上に没収されそうだったのかい?」


「生憎出身は対テロ組織でして、犯人は基本眉間に一発ですので」


「Oh……ナンブちゃんの優しさが身に染みるねぇ」


 はは、と皮肉に戯けて答えるシェリフ。


「で、なんでオイラは格納庫に?」


「オンリー姉さんが呼んでいるとか」


「マジで?任務でも呼ばれなかったのに?」


「言っておくが、私とミニーは別任務。

 あんたは酒場で何回か呼んだ、です」


 言われて、バツが悪そうにテンガロンハットで顔を隠すシェリフ。


「…………真面目に行くか。

 で、どのへん?」


「多分、いつもの」


 と、どうも使う場所は決められているのか、スタスタと歩き始めるナイファー達。

 慌てて新人二人もついて行く。


          ***

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