じゃじゃーん!! ナザリベスだよ。あたしはウソしかつかなーい!!!

橙ともん

第一章 WELCOME 瑞槍邸 くるとげっとできるよ!

第1話 じゃじゃ~ん!!

 いかにもっていう山奥の山荘で、謎解きが、逆に謎を残してしまう物語――



 2016年5月14日の夜中、とある駅前ホテルで仲良し5人による女子会な会話。


 ……えっとたしか?


 山口県の視界ゼロの山奥を登ったところにある山荘に、私の近所に住んでいる幼なじみの彼、愛称を『トケルン』(彼と一緒にいると頭の中がとろける~という意味です)と、第2外国語科目の私たちの授業担当の教授から……


 そうそう!


 母校の恩師へのお使いをお願いされてしまって。


 そもそも……、私のテストの結果が赤点だったせいで……。


 補習授業を少なくするかわりに、ちょっとお願いできないかって(むりやり!)頼まれてしまった……っていう話からですよね?


 行くことは良かったんですけれどね~、大問題があったんですよ。




「ええ~!! 彼と一緒に行かなければいけないんですか?」

 その時、教授から乙女1人じゃなんだろうってことで、その『トケルン』に一緒に行きなさいって仰られて。

 トケルンは、私の隣で私と同じように直立していて、その顔がムスッと嫌々~な表情をしていて、なんで教授がトケルンを呼びつけたのかは……私にはなんとなく理解できたんです。


「………………」

 無言のトケルン。


「………………」

 対する教授。


 はっきり言ってお互い嫌いなんでしょうね。

 トケルンが自分の担当している授業に、つまり外国語に興味無いことが見え見えなのは、私にも分かっていました。

 要するに、教授からトケルンへの“お仕置き”みたいな感じで、私と一緒に行ってこいっていうことなのです。



 ――で、行った場所は山奥の杉の山道をず~と登ったところでして、かなり薄暗くてシーンとしていました。


 その山荘がですね……まあ本当に大きくて、びっくりな洋風建築ですよ!

 ほんとに外国のB級映画に出てくるような、いかにもっていう感じの山荘でね!


 ……あ、玄関で1枚の紙を発見するところの話をしないと、すみません。 (・_・;)


 えっと、教授との関係上で言えるところだけ話しますね。

 ――で、この私『チウネル』(私の下の名前からできた愛称です。恥ずかしいので私も愛称にさせてください)がですね。

 なにげなく、それをひろって見てみたんです!

 そしたら、よく誕生日でもらうバースデーカードのように、こういうメッセージが書かれていたんですよ。



  WELCOME 瑞槍邸

 

  くるとげっとできるよ!


  2 - 5 - 193 番地



「みずやりてい、って言うんだ」

 そう私が呟くと、

「あ、住所を間違えた」

 トケルンが私の持っている紙を横から覗き込んで、彼がボソッとそう呟いたんです。


 その時の私の気持ち、こいつドツイタロカです!


「ちょっと! あんな無人駅からここまで、リュックにこんな重い荷物を背負って歩いてきて、どーするんですか?」

 私、怒りました! でも彼、私の方を見てくれません。

 表情はムスッとしてます。ほんとにドツイタロカです!

「だから言ったでしょ! あのブルドーザーが駐車していた分かれ道を私は右だって、でも、トケルンが左だろって! 私、てっきりトケルンが住所を知ってて、だから左の道の方が正しいって私も思ってしまい……もう!」

 私、いつも彼にこんなふうに振り回されるんです……。


 別に、すねてダダこねられたからじゃなくって、私は彼の頭の良さをずっと見てきたから。

 この前の文学の論説のレポートの宿題を少し見させてもらった時も、すごく論理的 で、それでいて面白くて、そういう視点から私、彼の判断を信じていたんですよ。

 でも、違ってたみたいです……。


「今から戻ると……こんな山道、真っ暗ですよ。懐中電灯も持ってきてないですし。どーするんですか?」

 彼、ず~っと夕暮れの空を見上げて黄昏ていて。

「ちょっとトケルン! 責任とってよ!」

 私も最初は怒っていたけれど、もう夜になろうとしていて腹立たしさを過ぎて、なんか……なんでこんな結果になったのかなって?

 あの分かれ道で、ちゃんとトケルンと話し合っていれば……とか、いろんなことを思い出して、そうしたら虚しい気持ちになって哀しくも寂しくもなってきて……。

 しばらくの間、その瑞槍邸の玄関に2人無言で立っていました――


 私はすっかり落ち込んでいました。

 顔を下に向けて、これからどうしようって思って、ふと右手に持っていた……その紙を見たんです。

 そしたら、


「あ、裏にも何か書いてある」

 って、気が付きました。

 見てみると、

「この邸宅の地図みたい……。2階建て地下1階もある」

 そして、


「ん? なに?」


 みなさん! ここからが重要ですよ!

 端っこにですね。子供が平仮名で書いたような、落書きのような文字を発見したんです!!



  ちょうちょ



「あ! これ小学校で歌った……」

 日本人なら誰でも歌ったことがある、それが書かれていました。

 そして、最後に変な言葉が書かれていたんです。



 あきにはどこにとまろかな?



「なに、これ?」

 私が思わず小さな声を出してそう言った時に、私のスマホに非通知で……


「♪~♫♫♪~♪♫~」


 って、電話が掛かってきたんです!

 非通知が気になったんですけれど……もしかして、教授が私達のことを心配して、電話を掛けてきたのかもって思い。

 私、その電話に出ました。そしたら――


「もしも~し、遊ぼうよ~。ねぇ、なぞなぞして遊ぼうよ~」

 どう聞いても、小さな女の子の声でした。


「もしもし……ねえ? ちょっと」

 私、間違い電話だろうと思って、その女の子に言おうとした時です。



「その紙の裏の謎々解けたら、入っていいよ~」



 その女の子がクスクスッて笑って……そう言って、私は、はぁ~? って、頭の中が少しよく分からなくなってしまって。

 ――でも、紙の裏とその女の子が言ったんで、私は右手に持っていた紙の裏を見つめて、そしたら電話の向こうでその子が、

「頭良くないと、解けないけどね~」

 またクスクスッて笑いました。


 ……ふと気が付くとトケルンが私の持っていた紙の、その平仮名の文字をしばらく見つめて、

 ……そしたら!



「イ長調」



 って、彼がそう呟いたんです。


 私、トケルンが何のことを言ってるのかよく分からなくて、でも……

「答えはイ長調。この歌はハ長調の音階、一般的に蝶は秋にはいない。この歌で秋と関連づけできるのは音階だけ。だからイ長調だ。つまり銀杏」

 と、トケルンがそうキッパリと言って、言い切って。

 その勢いに私も釣られて、

「イ長調なんですか?」

 って、おもわずスマホ越しに、そう言っちゃった。


 そしたら電話の向こうで

「うわ~! 当たり~!!」

 という大声、はしゃぎ声が聞こえました。

「正解したから扉を開けるね~」

 女の子がそう言うと、ガチャン、ギィィーと音がして、私たちが後ろを振り向くと瑞槍邸の扉が開いていくんです。

「自動ドア?」

 扉が開くと、オレンジ色の明かりが屋内を照らしていることに気がついて……。

 外はもう真っ暗闇だったので、本能的なのだと思うのですけど……私達はその明かりの見える屋内へ入りました。


 ツー ツー ツー ツー


 スマホの電話は切れていました――



 ――入ると、玄関はホテルのロビーのような、広いホールになっていました。

 とても広くて天井が高くて、ずっと上の天井のシャンデリアには、ロウソクよりは明るいオレンジ色の照明が光っていました。

 左側には2階へ上がるための階段があって、その階段がホールをぐるっと囲むように螺旋状になっていて。

 また、右側を見ると壁の柱のところにある置時計が、


 カチッ…… カチッ…… カチッ……


 と、鈍い音で時を刻んでいました。


「…………6時3分。……あっ! そ、そうだっ! お使い!!」

 私は置時計の時刻を見て、すぐにお使いのことを思い出して。

 だから、外に出なきゃと思って、扉の方へ向きを変えた時に、


「♪~♫♫♪~♪♫~」


 ……また、非通知で電話が掛かってきたんです。

 すぐに、あの女の子からだと直感して、私は電話に出ました。

「…………もしも~し。誰かな?」


「……あたしだよ~。あたし、地下1階の倉庫で待ってるから~、そこのエレベーターで来てね!」

「あの、ちょっとねえ? この扉開けたの、あなたたの? ねえ? 地下1階で待ってるってなに? ねえ?」

 私は聞き返しました。すると、


 ガチャ~ン!!


 なんと、玄関の扉が勝手に閉まって……しまって!(閉じ込められた?)

 トケルンも驚き振り返って! 私、ガチャガチャって……ノブをつかんで、力を入れても……開かなくて…………。

 別に、密室ってほどじゃないとは分かっていましたけれど。


「エレベーターはね~、階段の下にあるよ~」

 を最後に電話は再び切れました。

「エレベーターって…………あっ」

 見ると、ほんとに、そこにエレベーターがありました。



 ――チーン、ガチャ。


 エレベーターで地下1階について、扉が開きました。

 だって、玄関の扉が開かなくなってしまったんだから、しょうがないじゃないですか?

 言っときますけど、先にエレベーターへと歩いて行ったのはトケルンですからね。

 彼、何も言わずに歩いて行って、私も付いて行くしかないじゃないですか?


 屋内といってもオレンジ色のシャンデリアの照明は暗いし、置時計のチクタクッ……ていう秒針を刻んでいる音も不気味だし。行くしかないでしょ? この場合は!! でしょ?? 



 エレベーターから出ると、まっすぐ通路になっていました。


 カンッ コンッ…… カンッ コンッ……


 ……歩いていると、両側にはドアがありましたけれど、すぐ数メートル先にある、少し大きな両開きのドアが、倉庫なんだろうと私は直感して、

「ねえ? トケルン……」

 私、少し怖くなって小声で彼に語り掛けると、あいつ。


 ガチャ!


「おー開いた! 開いたぞ!! へへっ!」

 私……この時、この男は何も考えずに行動してるって思いました。

 そういえば、こいつ昔から闇雲な状況で、逆に勢いで突っ走ることがあったっけ?

 と思い出してあきれてしまって……。


 でも私、最初は怖かったんですけど、倉庫に入っていく彼の後ろ姿を見ていて、その彼の勢いに私怖さを忘れてしまって……。怖かったし……。

 それから、私も彼に続いて倉庫へ入りました。



「じゃじゃ~ん!!」



 ――その声は、電話越しの声と同じでした。

 倉庫の中はダンボールや木箱があちこちに積み重なっていて、すぐ隣にある開いている木箱の中には、ワインボトルが数本横になっていました。

 その中の目の前の木箱の一番上に、倉庫の中を照らす唯一の電灯を頭の真上から浴びて、一人の女の子がトケルンと私を見て……足をバタバタ木箱に当てながら嬉しそうに、そう言ったのでした。



「じゃじゃ~ん!!」



 もう一回、言いましたっけ?

 今思えばその女の子、スマホもケータイも何も持っていませんでした。

 でも、その時は夢中で、その女の子は中世のヨーロッパの女の子が着ているような、ドレスを着ていました。

 日本語を喋っているから日本人なんだと思いました。

 この話、結局名前を聞かずじまいで終わったので、どう見ても見た目がフランス人形なので、



『ナザリベス』



 という愛称で、これからお話しさせてください。


「ねえ~? お兄ちゃんとお姉ちゃ~ん! この家から出たい? 出たかったらさ~。これから3つの謎々を出すから、それに全部正解してよね~!」

 ナザリベスがそう言うと、

「あの~ちょっとね……」

 私がその子に話し掛けようと……そしたら、

「じゃあ~いきなりだけど~、最初の謎々~行っくよ~!」

 ナザリベスは座っていた木箱の上へ立って、


「ネットでヒットすることができるサイトもあるけれど~。絶対にヒットすることができないサイトって~、ど~こだ?」

 って言ったんです。


「あの? あなたのお父さんかお母さんはどこにいるのかな? ちょっと、お話ししたいんだけど……」

 私がナザリベスに言いたかったことは、兎に角、私たちの事情をこの子の両親に伝え、教授の母校の恩師へのお使いを無事に終えるために、その両親から正しい住所を教えてもらうことでした。


「ど~こだ! ど~こだ!」

「ねえ! 私たち今はなぞなぞをしている時間は無いのよ!」

「ど~こだ! ど~こだ!」


 ナザリベス、ニヤニヤと微笑みながら言うことを聞いてくれません。

 ……しょうがないので、私。

「ねえ? 現在のインターネットの検索サイトで検索できないサイトなんて無いって! ねえ? その謎々って、ちゃんと解けるのかな~?」

 と答えました。そしたら、

「ふっ、ふふふ~」

 ナザリベスが今にも笑い出しそうになって……。


 でもね、その時――


「バッティングセンターだろ」


 いきなり、トケルンがすぐにそう言ったんです。

「え~それじゃあ~、答えになってないよ~。お兄ちゃん!」

 ナザリベスが嬉しそうにそう返してきたら。

 トケルンは、すかさず――


「ホームラン」


 と言いました。

 私、まったくその時、意味不明だったんです。

 でも、後でトケルンにその意味を聞いたんですけど、ネットはインターネットのことじゃなくて、バッティングセンターにある球避けのためのネット、網のことなんですって。


「じゃあ更に~、その謎ってな~んだ?」

「更に……あるの?」


 ナザリベスの言葉に、私思わず声が出てしまいました。

 けれど、トケルンはあっさりと――


「ホームランの丸の板は、絶対にヒットされない場所だからだろ……」


 と言って。

 ナザリベスが

「つまり~?」

 って。


 でも、トケルンは言いました。

「遠まわしな言い方……家へ帰れないっか」


「……そう! 当たり~!! お兄ちゃん達~帰さないよ~」

 ナザリベスは木箱の上でバンバンと、そう言って嬉しそうにはしゃぎました。

 えっと確かホームランはヒットじゃないから、つまりホームにはランできない? それで、家へ帰れないっていう説明です。


「じゃあじゃあ~。更に、あたしがその謎を足でヒットさせてやる~。これな~んだ?」

「まだ続くの~?」

 正直言って、私、全然付いていけていません。意味が分からなかったんです――


「サッカーのゴール。しかも、オウンゴール」


 トケルンが、白けた声でそう言いました。

「オウ……ン? なにそれ、トケルン??」

 私、野球もサッカーも分からないんです。だから、まったく……まったく意味が分からなかったんです。


「……最初は、あたしの負け~。でも、次は負けないよ~」

 そう言うと、さっきまで無邪気にはしゃいでいたナザリベス。

 急におとなしく直立して、真顔になって。

「そうそう、お兄ちゃんだったらさ~、もう分かってるよね~。あたしの言いたいこと~」

 と言って、そしてなんと…………姿が消えたと思ったでしょ?

 違います。木箱の向こう側へと逃げて行ったんです!


 あの子なんなの?

 私はそう思っていて、ふと、隣にいるトケルンの顔を見てみると、彼じっと目の前の一点を見続けていました。

 私は彼が気になって、

「トケルン。オウンゴールってなんですか?」

 そう聞きました。

「オウンゴールは、かつては自殺点と言われていたんだ……」

「じ、じさつ??」

 意味がまったく分からない上に、そんな怖い言葉まで聞かされてしまい……私ビックリですよ。


「……そういう意味か」


 でもね、チンプンカンプンな感じになっている私を……トケルンは気にもせず。

 1人で考えて、そう呟いて……。

 なんだか私、どうしていいか分からなくて落ち込んできて……。そしたら、


「♪~♬♬♪~♪♬~」


 また、私のスマホに非通知です。絶対に教授からじゃないです。

 ナザリベスからだって、ハッキリと思いました。なんか分かるんです。そういう時って――


「……もしもし? ナザリベスちゃん??」

「そうだよ~。次の謎々はね~。1階の書斎で出すよ~。書斎は入口から遠いよ~」


 ガチャ。


 一方的に喋られて、電話を切られました……



 ――余談ですけど、帰りのエレベーターの中でトケルンが、

「あの女の子、なんで君のスマホの電話番号知ってるんだ?」

 って聞いてきたから、

「さ、さあ?」

 って返事して。

「君、無人駅についた時に、お手洗いに行くからって……」

「だから?」

 私が彼の方を向くと、

「その時に、君のスマホの番号をさ……」


「……いやいや、私自分のスマホ、お手洗いに持って行ったし、トケルン? 何言ってるの? え?」

「あ、いや、それならそれでいいか」

「ちょっと、トケルン! 私がなんかやらかしたから、こんなことになったとか?」

「いや、全然思ってないから」


「うそ!」

「うそじゃないって」


「だいたい、トケルンがブルドーザーの分かれ道でさ!」

「……ああ、はいはい」


「はいはいって」

「……」

「ねえ? はいはいって!!」


「……ところで、玄関の前、紙に書いてあった『くるとげっとできるよ!』って、どんなお宝なんだろうね?」


 こいつ……なんなんだ?

 この呆気らかんとした態度は?


 ほんま、ドツイタロカって思いました……。




「なあ、別に行かなくていいんじゃない?」

「ダメでしょ! だって玄関の扉開かないんだから!」

 トケルンのめんどくさいな~ていう気持ちは、幼なじみの私チウネルには、よくわかっていたけれど。

 でも、この家から出ないといけないし、で、エレベーターで1階に着きました。


 扉が開いて、

「書斎ってどこかな~?」

 私はずっと1枚の紙を持っていました。入口で最初にひろった紙をです。

 その裏には、瑞槍邸の地図が書いてあるのです。

「ん……??」

 私がそれを見ていると

「書斎は入口から遠いって言ってたでしょ」

 トケルンが、また横からのぞき込んで、そう呟きました。

「たぶんさ、ここなんでしょ」

 彼が指さした場所は、ホールから一番遠い場所にある部屋でした。

 その部屋へはエレベーターの向かいにある通路から、大食堂と書かれた大広間の横を通った――その奥にありました。


 カンッ コンッ…… カンッ コンッ……


 ホールには絨毯が敷いてあったのですけど、通路は地下と同じように学校の廊下のような感じでして、私達二人が歩いていると、その足音がかなり響いてくるんですよ。

「お~広い広い!」

 しばらく歩いていたら、トケルンの変な……はしゃぎ様。

 彼は通路の脇にある大食堂を、その通路側の窓に近付いて行って見ています。


 私も釣られて、その窓へ近づいて大食堂を見てみたら……それはすごい!!


 高級ホテルですよ! 高級ホテル!!


 よくテレビで結婚披露宴とかで映っている、あんな感じの大食堂でした。

「うわ~」

 私が感動して、感嘆して言ったら。言ったらさ……。

 彼、なんて言ったと思いますか?


「ゲットした時のお宝の分け前は、半々だよね? ……まあ、君の方が頑張ってるし4対6でもいいけど」

「だよね? お宝? どこに? なにがどう頑張ってる? ねえ? トケルンさん! 私たち遊びに来てるんじゃないんですよ。私、早くここから出たいんですよ。わかってますよね? ねえ!」

「………………ああ」

 彼が後一言でも鬱陶しいこと言いやがったら、蹴り倒してやろうて決めてたのに。

 彼大人しくなってしまいました。……ほんと、なんなんだこいつですよ。



 ――それから大食堂を横目に、通路を再び歩いて行って、その奥にある書斎のドアの前まで来ました。


 けど、私とトケルンの距離は微妙で彼少しだけふてくされて、借りてきた猫じゃないですけれど……借りたくもない猫のような、ほんと、なにこいつっていう感じの男になっていて。

 ……まあ、私はそれを気にしながらも、見る気も失せて……視線を合わせないようにして、


 コンッ コンッ


「失礼しま~す」

 ドアをノックして、ガチャ、キ~と開けて中へ入りました。


 ――私、その時、生まれてはじめて書斎というものを見たんです。

 壁一面が本棚ですよ!


 その本棚にはね! 難しい名称の本が並んでいて、絶対にこれ全部読んでないでしょっていうくらい、多くの本が本棚にあって、いかにもここが書斎だ~って感動しました。

 部屋の奥には窓、そのすぐ前に机があって、この瑞槍邸の主人が普段使用している部屋なんだと感じて……。

 でも、「ん?」とその机の左の部屋の角を見て、


「あ、ピアノ」

「違う、チェンバロだ」


 私がピアノだと思って見ていたそれはチェンバロで、つまりピアノの少し小さいバージョンです。

「……んでもって」

「え? なに?」

「あれだ……」

 トケルンがそう言って指さしたのは、そのチェンバロの後ろに隠れている女の子、ナザリベスでした。


「じゃじゃ~ん!! お兄ちゃんとお姉ちゃ~ん、ようこそ~。よくここまで辿り着けたね~」


 ナザリベスがチェンバロに少し身体を隠しながら、恥ずかしそうに話し掛けてきたら、

「バ~カ。地図を見たらホールから簡単に辿り着けるだろ」

 トケルン、そう言い返して、

「じゃあ、早速~、次の謎々行くよ~!」

 私が予想していた通り、謎々対決が始まりました。


「あたし~、貯金いっぱいしてきて御機嫌だから~、今から歌うね~!!」

 ナザリベスがそう言うと、その子はチェンバロに勢いよくズンッと腰かけて、少しだけ私たちを見つめて、

 そして……


「か~ごめ、かごめ~」


 わらべ歌をチェンバロの演奏と一緒に歌い出しました。

 両足を交互にバタバタとさせて、嬉しそうに演奏して歌っています。

「~だ~あれ?」

 歌い終わると腰かけていた椅子から、これも勢いよく降りて再び――


「じゃじゃ~ん!!」


「えっ? え? それのどこが謎々なの?」

 思わず私が言うと、トケルンが、


「徳川埋蔵金だ」


 なに? この会話です。

 私、意味が分かりません……。

 でも、ナザリベスは――

「簡単だよね~。じゃあさ、6つの角を曲がって鳥居をくぐって拝みに行ってみたよ~。な~んだ?」

 て、トケルンの解答に被せる様に、また謎々を言ってきたんです。

 ――でも、トケルンは、それにも動じることなく。


「くっだらねえな。都市伝説の話だろ。日光東照宮・明智神社・久能山東照宮・佐渡金山・名古屋東照宮・江戸幕府。その場所を線で結んだら、とある形になるっていうやつだ!」

「あははっ、面白くなってきたね~。よ~し更に謎を言うね~!」

 私……付いていけてません。

「言わなくても分かるぞ。6つの埋蔵金スポットの中で、鳥居といえば日光東照宮だろ」

「も~お兄ちゃんてば~! 先に答え言ったら面白くないよ~」

 またまた後で、トケルンに意味を聞いたんですけど、ほとんど意味がわからないんですけれど……。

 徳川家はその童歌を、埋蔵金の暗号にしたっていう話でした。





続く


この物語はフィクションです。

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