第28話 首吊りの木
私の通っていた高校は、裏に田んぼが広がり、校舎の左側は小さい山になっていた。
校門を出て山側の獣道(ケモノミチ)を抜けて行くと、私達がたまり場として使っていた広場がそこにあった。
好奇心旺盛な時期だったので、隠れての悪い事や授業をサボったりするにはもってこいの場所だった。
獣道(ケモノミチ)事態は、この高校に通う生徒の通学路にもなっていた。
5月のある朝早く、校門の辺りで騒しくわめいてる友人の田口がいた。
血相を変えて捲し立てている。
「大変だ!大変!」
「死んでる!死んでる」
「人が死んでる!」
「ぶらっぶらっしてるんだよ」
「死んでの!」
「誰か来てくれよ」
彼の話は、言葉になっていない。
ただ、その様そうを見て先生が田口を落ちつかせようとしてた。
彼の話をまとめると、通学中に山側の道の途中にある木に、首を吊った男性を見たとの事である。
それを聞いて見に行く野次馬もいて、学校中が騒然となった。
警察・救急車が学校に到着する。
生徒達は教室から出ないよう指示され南京状態に。
教室では、田口が見たことを皆の前で話ている。
自転車で木の前を通りすぎたら、呼び止められたんだ。
「田口くん」
と、声のした方向を見ると、男の人が木からぶら下がっていた。
風のせいか前後に揺れている。
ゆらゆら、ゆらゆらとなびいていた。
顔からは、涙やよだれ、鼻血といった体液が滴り。
背広のズボンはぐっしょり排泄物を垂れ流しして濡れていた。
強い排泄物の臭いが辺りの空気を汚してた。
あまりの光景と臭いに、田口はその場で嘔吐を繰り返し動けなかったそうだ。
聞いている私達も気分が悪くなるほどだ。
そんな事があり、学校が当分の間通行止めに道を閉鎖していた。
もちろん私達はお構い無しに、その道を使っていたのは当たり前。
途中にある木は
「首吊りの木」
と呼ばれるようになっていた。
心霊スポットとしても地元では有名場所に。
私達は、いつものように授業をサボってたまり場に来ていた。
「田口、あそこの前通って大丈夫なのかよ。」
「お前呼ばれたんだよな。」
「次、田口がぶら下がるのか。」
など、田口をからかっていた。
「お前ら、俺がどんなに怖い目にあったか、
馬鹿にするなよ。
今でも夢見るんだから、その話しは勘弁してくれよ。」
少し怒っているようだった。
夏休みが過ぎ、あの事も少し薄れてきた頃だ。
9月の朝早く、田口が騒いでいる。
「また、首吊りだ!」
第一発見者は、前回に続き田口らしい。
今度の首吊りは若い女性だった。
ビニール紐を木の枝と首に巻き、前方へ倒れこむ様な態勢で死んでいた。
今回田口は
「寝てたら名前呼ばれて起きんたんだ。
夢だと思うけど、誰かに呼ばれた気がしたんだ。
早く起きた分、早く家出る事にした。
そしたらまたあったんだ。」
「俺呪われてるよ!」
一人教室で騒いでいる。
ざわめく教室。
当時は、今と違って心のケアなど特にしてくれなかったを覚えている。
1日中、首吊りの話題でいっぱいだった。
再び道の封鎖へ、学校側が我々に示してきた。
私達は、1週間も立たないうちに道当然のように道を使っていた。
学校帰りに広場に集まってくる仲間達。
「今日、暗くなったら肝だめしやろうぜ。」
と誰かが言い出した。
皆は強がって、うなずいていた。
「首吊りの木を一周して戻って来るのな。」
暗くなるのを待つ
二人一組で行う事にした。
私は、あろうことか田口と組むことになった。
「なんだよ田口とかよ。
最悪だな。」
内心かなりびびっていた。
田口も言い返す
「吉野、俺と行くのが怖いんだろ。
なんなら俺一人で行くぜ。」
できるなら、そうしてほしかった。
私達の順番を待つ
前の組が帰ってきた。
かなり青ざめた顔をしてるが、何事も無かったみたいだ。
「次、吉野と田口な。
びびってんじゃないぜ。」
と言葉悪く送り出された。
道中風で木々が揺れて
ガサ・ガサッ
シャー
など音する。
音がする度に、背筋がぞくぞくして落ち着かない。
二人とも無言で歩いた。
たぶん田口も怖いんだろう。
いつも以上に目を見開き、瞬きもしいように見えた。
歩いているのに、中々例の木まで進まない。
ようやく首吊りの木だ。
田口が着くなり
「あっ!」
その後言葉が出ない。
パクパクと金魚のように口を開け閉めするだけだった。
「田口、どうした。
落ち着けよ。」
「吉野、う・後ろの………
見えないか……
ぶ・ぶ・ぶら下がっている・のを……」
そう言われて振り向いたら、
木の枝に、白い人形のモヤみたいのものが揺れているのが見えた。
「た・たぐち……
何かいるよな。」
田口がうなずいた。
「スーツを着た、オッサンが木の枝にぶら下がっているだろ。」
恐ろしかったが、私は木に再び目をやった。
しかし、そこには何も無かった。
恐怖心が見せた幻だったのだろうか。
田口は、まだ震えている。
「ヤバイよ。
こっちに来いっ呼んでるよ。」
「田口悪い、やっぱ見えないや。」
「ヤバイ・ヤバイ
オッサン近づいて来るよ。
首に縄つけたまま。」
「帰ろう。
なっ、帰ろうよ。」
泣きそうになりながら、うったえる田口が気の毒に感じた。
その場を後にした。
戻り道の記憶は無く、皆と合流した。
「マジ、ヤバイから。」
と、私が言うと田口も
「首吊ったオサッンが、追いかけくるんだ。」
それでも最終組は出て行った。
数分後、彼らは青い顔をして走り戻ってきた。
彼らも得たいの知れない何かが、枝にぶら下がっているのを見たそうだ。
我々が卒業した後も『首吊りの木』で、首を吊った者が2人でていた事を後で知ったのであった。
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