第26話 憑依(ポンコツ撮影日記5)

夏のエピソード


グラビアアイドル達とS県の温泉紹介

久々の華やかなお仕事だ。


まずは、グラビアの本領発揮すべく砂浜で水着撮影。

今日は、スタッフ全体の機嫌が良い。

浜辺でのバーベキューなどスタッフも楽しみなが仕事が進む。


突如、海からY美ちゃんの悲鳴が、

「誰かが足を引っ張るの。

もう少しで溺れるところだったよ。」

と慌てて我々の元に。

驚いた事に彼女の脚には、海藻が無数絡んでいた。

溺れかけた原因は、海藻だと誰もが思った。

とりあえず、Y美ちゃんをバスで休ませる事にした。


海での撮影は、後半Y美ちゃん抜きだったが無事に終わった。


ホテルに移動

この時には、Y美ちゃんも回復していた。

「さっき程は、すみませんでした。

休んだのでもう大丈夫です。」


食事シーンを撮り終え休憩に。

Y美ちゃんは、まだ少し元気がないようだった。

S子とAちゃんが騒ぐなか、一人離れて座っている。

心配そうにメイクさんが声をかける。

何やら真剣な面持ちで、話している。


やがてメイクさんが私に

「彼女、霊感が強いらしいの。

それでね、海で脚を小学生ぐらいの男の子に引っ張られたと話しているんだよね。

このホテルに男の子が、付いてきちゃったんだって。

吉野さん、こういうの詳しいでしょ。」

確かに、心霊番組などで不思議な事を体験していたが、男の子を見る事ができない。

私は、Y美ちゃんを勇気づける事にした。


「何かあたっら話してよ。

みんないるからね。

大丈夫だよ。」

「ありがとうございます。

私、霊感強いんです。

グラビアやってるのに、こういうのマイナスだと思って、黙ってきたんです。」

彼女はうつむきながら話した。

「今日はいつもより、相手の力が強くて!

引き離す事が出来なかったんです。

ごめんなさい。

もうお仕事も限界かなと思うと悔しくて。」

落ち込む彼女に

「今回の事は、なるべく内緒にするから

気を持ち直してね。」

弱々しく頷いた。


その後も撮影が進み、就寝シーンで撮影が終わる。


監督が

「今日はお疲れ様でした。

いろいろありましたが、良いできだと思います。

明日も早いですがよろしくお願いします。」

と、1日を締めた。

皆が

「お疲れ様でした。」

と部屋に解散した。


私がベッドに入るなり、誰かがドアをけたたましく叩く。


ドン・ドン・ドン


ドアを開けると、Y美ちゃんとメイクさんが立っていた。

かなり慌てている。

「S子ちゃんが……S子ちゃんが…………」

言葉にならない。

少し落ち着きを取り戻して

「乗り移った、男の子が……S子ちゃんに男の子が乗り移ったの」

「えっ!S子ちゃんに」

私は驚いた、霊感がないと思っていたS子ちゃんに乗り移つるとは。


部屋に行くと、S子ちゃんの傍らでAちゃんが泣いている。

「S子ちゃんがおかしくなったの。」

私は、Aちゃんを部屋から出した。

落ち着かせるようメイクさんに頼み、部屋にいるS子ちゃんに近づいた。


彼女は、私達に向かって

「お姉ちゃん達、いっしょに行こうよ。

僕といっしょに行こう。」


私は声をかけて良いのか悩んだが話しかける事にした

「何処に行くの?」

「海の中だよ。

まだ、僕の体は海の底に沈んでるんだ。

そこのお姉ちゃんが、僕を呼んでくれたんだ。」

と、Y美ちゃんを指さした。

その場にへたりこんだ。


「ひとりで、帰ってくれないかな。

お姉ちゃん達は、お仕事があるんだよ。」

「ヤダッ!」

「昼間でも薄暗いんだよ。

僕ひとりきりで、ずっといるんだ。

いっしょに行こう。」


S子ちゃんの体が震え始めた。

憑依されてる事に、負担がきたのだろうか。

これ以上どうしたら良いかと思っていると、Y美ちゃんが

「ごめんね。

ごめんね。」

と言ってS子ちゃんに抱きついた。

「お姉ちゃん、いっしょに行けないの。

でもね、早く見つかるように祈っているから帰ってね。」

「……………」

「このお姉ちゃんを離してあげて。

お願いだから。」


Y美ちゃんの話が理解できたのか、S子ちゃんの力が抜けて倒れこむ。


「男の子はどこいった。」

「たぶん帰りました。」

Y美ちゃんのおかげで、解決したようだ。

各自、部屋に戻り一夜を過ごした。


翌日、再び海へ

雲ひとつない空に青い海。

私には、波の合間に男の子が見える気がして落ち着かなかった。

















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