6話 同期視点
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濡羽 硝子
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私はずっと、泣き虫だった。
コミュ症で、ボッチだった。
まあ、色んな所で見るような酷いものではなかったけど、メンタルはただただ弱かった。
メンタルは大人になっても強くなることはなく、常に落ち込んでいたり静かに泣いていたりした。それを打ち明けたり相談する相手も居なかった。
そこで出会ったのがV業界。
楽しそうに同期どうしでゲームをしたり、リスナーと雑談したりして、すぐに私の憧れになった。
何より、あんなに大勢の人の前であんなに喋れることに素直に尊敬した。
特に、アナザーズーが好きになった。
あの人たちは、私に元気を与えてくれた。
2期生の募集の発表があったのはその時だった。
私はすぐに応募、とはいかなかった。
私が入っていいのか、応募していいのかとか、要らないことばかり考えていた。
結局、ただ単に勇気がなかっただけだ。
でも、天ちゃんの、
「気軽に応募してくれていいからね」
という言葉に背中を押され、
勇気を振り絞って応募した。
一次審査通過。
そのメールに驚愕した。
顎外れかけちゃった。
受かってしまった、そう思ったが、それじゃアナザーズーの人達に失礼だ。また私は覚悟を決めた。
面接当日。
ぶるぶる震えながら本社へ行った。
面接官の人はとても優しい笑顔で私を迎えてくれて、貴女が軽度のコミュ症であることは知っているから、質問に楽にして答えてくれ。と言ってくれた。
質問は続き、最後の質問。
「この会社の面接では、最後に必ずする質問があるんだ。そう、君は、ここで何がしたい。」
こういう質問が来るだろうということは予想していた。私は決めている。
「私は、私を見てくれる人と一緒に、強くなりたいです!」
「分かった。それじゃあ、通知は後で送るから、気長に待っていてくれ。首を長くしていてもいいぞ。がっはっはっは!!!」
と、送り出された。
後日、家のポストに通知が来た。
採用。
その日は震えが止まらなかった。
喜びは声にならない叫びになって身体中を駆け巡った。叫ばなかったのかって?後から叫びました。
そのあと、本社から呼び出しがあって、2期生全体マネージャーの人に会った。
「紅彩綺花です。よろしくお願いします。」
「よろしくお願いします。」
としっかり握手を交わした。
社会人として信用できる人って感じだった。
そして、自分の立ち絵を選ぶことになり、マネさんがイラストを見せてきた。
「この中から「これ!」もうちょっとじっくり考えていいんですよ!?」
見てすぐにビビっと来た。
これが私だったらいいな!
そんな憧れの立ち絵だと思った。
その時から私は、濡羽硝子になったんだ。
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「ぁああああああああ初配信やらかしたぁああああああああ黒翳さんごめぇぇぇぇん…。」
と、初配信の後悶絶することになる。
「黒翳お姉ちゃん…。友達になりたいな…。」
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「黒…翳……お兄…ちゃん………。」
と、何度も自分の行動を後悔することになったりするのだがそれはまた別のお話。
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魅 鬼人
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日常に飽き飽きしていたんだと思う。
友達と遊ぶ、それも楽しい。
でもやっぱりなんか物足りないな。
そう思っていた。
V業界を知ったのはその頃だ。
俺はだんだんのめり込んでいった。
沢山のゲーム配信、視聴者参加型の配信に何度もお邪魔したことがある。
アナザーズーにも何度もお邪魔した。
レースゲームに現れては並走をキメたり、麻雀配信にお邪魔しては配信主を飛ばしたり、アクションゲームでは主瞬殺RTAしたり、乱入して場をかき乱すのを楽しんでいた。配信主に名前が認知されていたりして正直ビビった。
特にサバイバルゲーム。マッチングした時はまず配信主の仲間を倒してから、最後に主とタイマンでやりあったり、主も俺もカッコよくなるように戦ったりした。最後の主とのタイマンはめちゃくちゃテンション上がってて、やっぱり俺、こういう人達とゲームしたり、戦ったりしたいんだなぁ、って自覚した。
その時、アナザーズー2期生の募集があって、すぐに応募した。
今度は自分がその立場に立って、あの人達と一緒に戦ったり、視聴者の中に居るおれみたいなやつと一騎討ちしてみたい、そう思ったからだ。
一次審査通過。
そうメールが来た。
着々と進んでいる、という実感があった。
面接当日。
面接官の質問は取るに足りない世間話だったり、ちなみにアナザーズーの中では誰が好き?だったり、面白い人って感じだった。全体的に距離感が近かった。
「この会社、面接の最後にこういう質問をするんだ。本気で答えてくれ。君は、ここで何がしたい?」
「俺はここで、戦いたいです。ここの皆と、滾る戦いを。」
「面白いね。いいね!それじゃ、通知は後で送るから楽しみに待っていてくれ。」
と、面接は終わった。
その後、家に通知が届いた。
採用。
驚いたが何故か頭の中は冴えていて、自分をどんなキャラにするか、そういう事を考えていた。
そして、本社に呼ばれ、マネージャーに会った。
「紅彩綺花です。これから2期生の全体マネージャーをさせて頂きます。マネさんとか呼んでください。」
「これからよろしくお願いします。」
と、握手を交わした。
そしてついに自分のキャラを選ぶ時が来た。
「この中から選んで下さい。ちなみに希望ってありますか?」
「えっと、腹黒の戦闘狂?とかどうです?」
「え、ああ、ありますよ!これです。鬼と人のハーフ、魅 鬼人。どうです?」
男の鬼ってカッコいいよね!
何か角からビーム出そうだよな!
好き!
カッコつけるのにピッタリかもな。
「いいですね。そうします。」
「何で皆さん迷わないんですかね…。」
「どうかしました?」
「なんでもないです!他に見ないんですか?」
「決められなくなるんで、これだなって思ったらそれにするようにしてるんです。じゃないといつまで経っても終わらないでしょう?俺良く直感に頼るんで。」
「そうなんですか!じゃあ、準備して置きますね。初配信、準備しておいて下さい。」
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初配信を終えた。準備した甲斐あって、テンポ良く進んだ。同期の黒翳さんは色々と秘めてる物がありそうで、楽しみだ。主に一緒にゲームする事だけど。濡羽さんは…。所々残念だな。うん。
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藍・ヴェール
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私は身体が小さかった。
大人になっても小さいまま。
日常生活に支障は出てくるし、助けを求めても所詮は傍から見たら子供に見えるから笑って流されたりする。
声だって子供っぽい。
所謂コンプレックスってやつだ。
コンプレックスによる自己嫌悪は加速していくばかりだった。
が、Vに触れて全てが変わった。
あの世界は、個性の全てを受け入れてくれているような気がした。
言い過ぎかもしれないけど、私は本当にその時救われたんだ。この声も体も、肯定された気がして。
生活と心が安定してきた頃に、アナザーズーが2期生募集開始した事を知った。いい機会かもな、受かればいいなと思って応募した。
一次審査通過。
そうメールが届いた時は、心臓が止まるかと思った。当たったらいいな、って感じで応募した懸賞が当たったような、微妙な心境。めちゃくちゃ嬉しいし、緊張するけど。胸に手を当てたら心臓がいつもより早く動いてた。
面接当日。
面接官の人はユーモアのある人だった。
質問も気負わなくて良いって言いながらしてたし。
でも、最後だけは、真面目な顔になって、
「最後の質問だ。君は、ここで何がしたい。」
と、質問された。
正直、ちょっと迷った。
でも、
「私、この見た目にコンプレックスを抱いてたんです。でも、Vのお陰でそんなこと気にしなくなったっていうか。そんなこの業界に入って、恩返ししたいんです。私のような人が救われたんだ、救ったのは私達なんだ、って自信を持って貰いたい。そして、私がそういう人達を救いたい。綺麗事かもしれないけど、そういうことがしたいです。」
「ありがとう。この質問するのも今回は君で最後だから、この質問の意図、教えてあげるよ。私達は、自分を持っていて、自分の意思があって、そして明確なやりたいことがある人が欲しい。君は良いと思うよ。それじゃ、また通知は追って送るから。待っていてくれ。」
「はい!」
そして後日、家のポストに通知が来た。
採用。
泣いて喜んだ。
泣きすぎて、その日のことはあんまり覚えていない。自分の言いたいことが受け入れられたってことだから。嬉しかった。
遂に本社に呼ばれた。
マネージャーさんにも会った。
「かわい(ボソッ、ごほん、2期生全体マネージャーを務めさせて頂く、紅彩綺花です。よろしくお願いします。」
「よろしくお願いします。」
と、握手をした。
とても女性らしい手で、カッコよかった。
そのまま、自分のキャラを決めることになった。
「この中から選んでもらうことになりますが…、どんなキャラがいいですか?」
「出来るだけ奇抜な設定で、小柄なキャラで。」
「え?小柄なこと気にされてるんじゃないんですか?」
「いや、今はそれもアドバンテージとして考えてるんです。私だけの長所です。真似出来ないでしょう?」
「胸張ってるのかわい(ボソッ、えーと、このキャラなんてどうですか?藍・ヴェール。この目とか奇抜ですよね。」
「それにします!一目惚れです。それで配信したいです!」
「それは良かった。配信よろしくお願いしますね。楽しみにしてますから!」
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初配信も終わった。
テンポよく、事故なしで終われた。
同期の皆、とても面白そう。仲良くしたいな、そう思えた。それにしても黒翳さん凄いなぁ、どれだけ声の使い方が上手いんだろう。濡羽さんもキャラが出来てるし。鬼人さんは、ちょっと怖いけど、なんか楽しく喋れそうだね。楽しみだなぁ。
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「はい、え?同期でオフコラボ?いや、まだ駄目です。あと三ヶ月後くらいじゃないと、軌道に乗ってからじゃないと駄目です。はい、はい。よろしくお願いします。」
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