第13話:レッツゴー、魔王城!

【Ⅰ】さあ、魔王城へ行こう

 カザンドラ。

 魔王城の付近にある城塞都市であり、魔王軍の侵攻を幾度となく防衛している重要拠点である。


 カザンドラの冒険者ギルドには、フラウディア王国よりも優秀な人材が揃っている。

 ここは魔王城付近の街であり、強くて優秀な人材が必要とされるのだ。その為、レベルの高い冒険者が勢揃いしている訳である。


 そんな激戦区に放り込まれたにも関わらず、レベルカンストのユウとゼノはのほほんとしていた。



「ローザちゃんはどこで待ってようかぁ?」

「妾は冒険者ギルドで待たせてもらうのじゃ。どうせ早く帰ってくるじゃろ」



 ツンと澄まし顔で言うローザは、



「さっさと討伐して、しっかり稼いでくるのじゃ」

「うん、分かった」



 ユウはしっかりと頷くと、カザンドラの冒険者ギルド前でローザと別れる。


 ゼノと並んで歩きながら、ユウは「ねえねえ、ゼノ」と相棒のダークエルフを呼びかけた。



「カロンナイトって、魔法で倒せるかなぁ?」

「倒せるだろ。倒せなかったらアタシが何とかする」



 不安そうにするユウの頭を、ゼノはぐりぐりと乱暴な手つきで撫でてやった。



「ユウ坊は魔法専門、アタシは物理専門。それで上手く回ってるんだからいいだろ」

「うん、そうだね。ぼく、頑張るね」



 長杖ロッドを両手で握りしめて、ユウはゼノに笑いかける。


 レベルカンスト状態の彼らの頭には、魔王のことなど一片たりとも残っていなかった。

 正直な話、彼らが重要としているのは、魔王よりも今日の晩ご飯のことである。さすがレベルカンストと呼ぶべきか、はたまた能天気と呆れるべきだろうか。



 ☆



 カザンドラの城門前は、たくさんの冒険者で溢れかえっていた。


 城門の向こう側からは怒号や絶叫が幾重にもなって響き、傷ついた冒険者がカザンドラ敷地内に飛び込むと同時に、治療の終わったらしい冒険者がカザンドラの外へ飛び出していく。

 何やら誰かと戦っているようだが、彼らの鬼気迫る表情にユウとゼノは話しかけることすら出来なかった。


 しかし、困った。

 この城門を通らなければ、魔王城へ近づくことすら出来ない。


 魔王城へ近づくことが出来なければ、カロンナイト五〇体討伐という仕事が完遂できない。それでは大いに困るのだ。



「なあ、お嬢ちゃん。忙しいところ悪いんだが、聞いてもいいか?」

「はい、何でしょう」



 基本的に人見知りなユウに代わって、ゼノが近くで傷ついた冒険者の治療をしていた白い長衣ローブ治癒師ヒーラーの少女に問いかける。



「カザンドラの近くで何かあったのか? アタシら、今日この街に着いたばかりなんだわ」

「魔王軍の侵攻です。我々はその侵攻を阻止しています」



 治癒師の少女は疲れたような表情で、



「ここのところ、魔王軍は毎日のようにカザンドラへ攻め込んできます。我々が食い止めないと、他の街にも影響が……」

「そうか、大変だな」



 ゼノは他人事のように頷く。


 彼女が治癒師の少女から事情を聞き出している間に、ユウはぐるりと周囲を見渡す。


 傷ついた鎧を修復する戦士、折れた武器を交換する槍使い、失った魔力を回復する為に薬をがぶがぶと飲む黒魔法使い――誰も彼も疲弊した様子で大変そうだ。

 彼らが死んでしまうと、魔王軍の侵攻を食い止めることも難しくなってしまう。治癒師も白い長衣をはためかせて傷ついた冒険者たちを一人一人巡り、傷や疲れを魔法で癒やす。


 長杖を両手で握りしめると、ユウは呪文を唱えた。



「《たくさん元気になーれ》」



 疲れ切った様子の冒険者たち全員に、緑色の光が降りかかる。


 ユウが唱えたものは回復魔法だ。

 しかも、治癒師であればかなりレベルを上げなければ習得できない広域回復魔法である。


 一瞬で傷も疲れも魔力も回復した冒険者は、驚いた表情で顔を上げる。

 あっという間に元気になった原因を探して視線を彷徨わせ、そして長杖を掲げるユウに注目が集まる。


 いきなりたくさんの視線に晒されたユウはビクリと肩を震わせ、急いでゼノの背後に隠れる。が、ひょっこりと顔を出すと、



「《むきむき》《かちかち》」



 攻撃力上昇、防御力上昇の支援魔法を重ねて施す。


 冒険者たちから「おお」「これは凄い」と称賛の声が飛んできて、ユウは細々とした声援を送る。



「が、頑張れっ」



 見た目は立派な青年だが、中身は純粋無垢な子供である。

 そんな彼から声援を送られても、冒険者からには大した影響は繋がらない――。



「おう、任せてくれ」

「支援魔法と回復魔法、ありがとうな!!」

「坊ちゃん、魔法が上手なんだなぁ!!」



 冒険者たちは清々しいほどの笑みを浮かべてユウの声援を受け取り、意気揚々とカサンドラの外へ飛び出していく。


 あっという間にお役御免となった治癒師の少女はポカンとした様子で冒険者たちを見送り、ゼノは彼らを治癒したユウの頭を撫でてやった。



「ユウ坊は優しいな」

「だって、みんなには頑張ってほしかったから」



 ユウはにへらと緩んだ笑みを見せて、



「ぼくたち、これから魔王城へ行かなきゃいけないでしょ? 本当はお手伝いしなきゃいけないけど、お仕事しなきゃいけないし。ぼくにはこれしか出来ないから、みんなには頑張ってほしいの」



 本当なら、冒険者としてユウも彼らのお手伝いをしなければならない。


 しかし、ユウにはこれからカロンナイトを討伐するという仕事があるのだ。

 冒険者のみんなを手伝っていたら、カロンナイトを討伐する前にこちらが疲れてしまう。ローザに「さっさと討伐してこい」と言われているので、あまり魔王城には長居したくない。


 ユウはゼノの腕を引くと、



「行こ。早くかろんさん倒さないと、ローザちゃんに怒られちゃうよ」

「安心しろ。もしあのドジっ子腐れメイドに怒られでもしたら、アタシが逆に説教してやるから」

「ゼノ、あんまりローザちゃんをいじめるのはやめよ?」



 放心状態の治癒師の少女に「ばいばい」と手を振って、ユウとゼノはカサンドラの城門を潜った。


 怒号や絶叫、爆発音が聞こえる中、彼らは黒い雲の下に聳え立つ魔王城を目指す。

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