#1

明彦は花を見つめていた。

その花は大きなひまわり。黄色い花びらがぴんと張ったひまわりで、中心には種がびっしりと詰まっている。よく見ればグロテスクな見た目をしているが、その時の明彦にはそんなことどうだってよかった。

心臓がバクバクと波うち、ヒマワリの花弁が数枚はらはらと落ちていった。落ちた先にはてらてらと薄気味悪く光る廊下。その廊下に椅子を二つ並べ、明彦は自分の番が呼ばれるのを待っていた

その日は二者面談の日で、明彦の番は次だった。

窓からはヒマワリがいくつか咲いており、太陽の行く先を必死に追いかけている。そのヒマワリを囲うようにセミの音がじりじりと響き渡っており、夏だなという感じがする。

「次、明彦。いるか?」

先生が教室からひょっこりと顔を出し頭をきょろきょろさせる。

「はい、ここに」

明彦は小さな言葉で答えた。

面談は教室で行われ、先生と対面して席に座る。がっちりと視線が交わり、少し居心地が悪い。

「もう中学2年の夏だな。そろそろ進路とか決めたか?」

先生がゆったりとした調子で話を始めた。全生徒にやっていて、何も考えず話しているという感じで。

「いえ、まだ」

明彦は簡単に答える。こちらも何も考えていないという風の棒読み音声で答える。

「まあ、考えてなくても、この夏休みで目星をつけていってもいいんじゃないかな」

先生はまたも何も考えていない風だった。僕に興味はないんだ。そう思った。

面談は終わり、教室から出た。

結局あのあとに実のある質問はなかった。延々と先生の身の上話を聞いて終わり。でもそれでよかった。

「じゃあ次、はなび、いるか?」

さっきまで明彦が座っていた席にちょこんと女子学生が座っている。その女子学生は先生を見るや否やはつらつとした声で「はーい!」と嬉々とした様子で答えた。

ああ、僕とは正反対な性格の子だな。明彦はそう思った。

その女子学生は、ぴょんぴょんと跳ねるような様子で教室に入っていった。

はなびとは、というかクラスのだいたいの人とかかわったことがなかった。暇さえあれば本を読み、一目散に帰宅していた。

この日も、いつもならすぐに帰宅するところだが、寄るところがあった。この学校の図書委員である明彦は今日図書館司書に呼ばれていた。

明彦の教室は2階、1階にある図書館に向かうには教室の端っこにある階段を使わなければいけない。そこに行くまでに教室をいくつも通り抜けなければならず、その教室に残って楽しげな声を上げる生徒たちをうざったく思っていた。

しかし、今週は面談の週。憂鬱な顔で待っている生徒もいれば、余裕綽々な生徒もいた。廊下は静寂に満ちていた。

図書館につくとドアは閉まっていた。なかからは申し訳程度に明かりが漏れ、かすかに音がする。

明彦はドアを開けると、図書館司書の先生に「いらっしゃい」と迎え入れられ、仕事を手伝った。今日の業務は、図書館に入った新しい本にラベルを貼る作業だった。

「今日は面談の日でしょう。大変ねえ」

図書館司書の人は慣れた手つきでラベルを張りながら明彦にしゃべりかけた。

「そうですね」

明彦は無愛想に答えた。

「進路とか、決まってるの?」

「いえ、まだ...」

そう答えながら、明彦は内心うんざりしていた。またこの質問か、と。

「恋人とか、いないの?」

図書館司書の人は不敵な笑みを浮かべながら聞いてきた。

「いませんよ。なんでです?」

僕は聞き返した。

「彼女と同じ高校に行くってさ、なんか素敵じゃない?」

「そうなんですかね、僕にはわからないです。」

そう言いながら、明彦の貼ったラベルは、少しずれていた。

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