第2話 処刑見学
「リンリ~」
放課後。
俯き加減で歩くリンリに、のんびりとした口調で声をかけるのは、憲兵第一科を目
指す幼馴染の百道百葉(ももちももは)。おっとりとした外見と態度に反して、面
倒見がよく意外としっかり者の女子だ。
「よお、お疲れ」
「おつ~」
百葉が俺の肩をトントンと叩く。
「おいおい、止めろって」
リンリは慌てて彼女から距離を取る。
「もうっ! バカっ…」
百葉は不貞腐れて頬を膨らませた。小柄で少し肉感のある彼女がすると、やはり可
愛らしい。
しかしリンリは、幼馴染の彼女を避けていた。なぜなら、上を目指す彼女と、『処
刑人』という誰もなりたくないような生業を第一目標として目指している自分なんか
に構っていると、彼女まで学校で浮いてしまうのではないかという懸念があった。
「また変な気遣いしちゃって…」
彼女は、自分が嫌われているなんて全然思っていない。リンリはそれが嫌味だとは
思わなかったし、むしろ彼女が自信を持っているからこそ自分は彼女と今もこうして
友達を続けられているのだろう。彼女のこういう自信のあるところは感謝しかない。
「ところで、明日でしょ?」
「ああ…」
明日は、リンリにとって重要な日と言っても過言ではない。
処刑見学。
この国は、犯罪を取り締まり犯罪者に処罰を与える組織が二つある。
一つは、警察。窃盗罪やわいせつ罪、詐欺罪、暴行罪など、殺人罪以外の罪は懲役
刑や執行猶予などを与え、複数の人間を死に至らしめた人間は死刑判決を下す組織。
そしてもう一つは、憲兵。
死刑判決に関しては警察と同じ。
しかし、その他の犯罪への罰は、大きく異なる。
「大丈夫なの?」
「…そんなの分かんないよ。ていうか思い出させんなっ」
「ごめん…」
彼女が心配するのは、よく分かる。
だって、明日は、憲兵に逮捕された犯罪者への処刑を、この目で見るのだから。
自分の子供に暴力を振るった罪人は、利き手を切り落とされる。二度と暴力が振るえ
ないように、と戒めるために。
リンリは明日、それを見に行く。
そして、想像する。
公衆の面前で、部外者たちから犯した罪を咎められながら、己の利き手を切り落と
される光景。
警察ではなく憲兵に捕まってしまったばかりに、自分の手を片方失ってしまう悲劇。
明日は逃げ出したいくらいだった。
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