ふと、手を見る。
あきかん
今日の僕は
「死にたい。」
部屋の中で呟いた。独り暮らしであることだけが今は救いだ。悲観的な妄想を呟いても誰にも聞かれない。
ぐーぐーと腹がなる。一昨日から何も口にはしておらず、腹は空いているのだが、不思議と食事を取ろうとは思わない。この2日間は睡眠も浅く短いものになっている。たぶん、体力は限界に近いのだろう。どうでもいいが。
今はただ、死にたい、という思いだけで体が満たされている。甘美なこの思考に己の全てを委ねていたい。薄い壁を突き抜けて聞こえてくるいつもの喧騒も、今は何処か遠くの出来事に思える。
「このまま過ごしていれば死ねるかな。」
空白に向けて語りかける。当然返答はない。しかし、この部屋で朽ちるのは余りにも安らかな死ではないか、と己の内から声が聞こえてきた気がした。
僕は家を出ることにした。立ち上がろうとすると目眩がしてよろける。そういえば、今日は水も飲んでいない。何とか這いずり、コップに水を注ぐ。それを一口飲んだ。
生暖かい水道水が身体を巡るのを感じる。カルキ臭が鼻を抜けた。まだ僕は生きている。
軽くシャワーを浴びて外着へと着替え、家を出た。あてはない。肌を焦がすような日の光がえらく心地よかった。刺すような陽射しの中で生き絶えるのは悪くない。ふと、そんな考えが浮かび公園を目指すことにした。
真夏の暑さは、アスファルトから陽炎を立ち上らせていた。軽く見積もっても、真夏日といった気温であろう。人の気配は、いつもより少なく感じた。
真夏の陽射しはジリジリと僕の体力を削り取っていく。足が前に出なくなる。五百メートルはないだろう目的地の公園が、えらく遠くに思えた。
後少し、もう少しでたどり着く。ただその一念のみで歩を進める。一歩また一歩。時には休みながら、また一歩。額から流れ落ちる汗にも気を止めなくなった頃に公園へとたどり着いた。
僕は陽射しの照らすベンチへと腰を下ろした。身体の全てをそこに預ける。もう動くことはかなわない。身体の芯まで突き刺してくる今日の陽射しが、僕の魂までも蒸発させてくれるのではないか、と期待した。
ふと、手を見つめてから僕は目を閉じた。そこは白い光の世界が広がっていた。
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