スーツの男の夢

出店で賑わう祭りの中、とある男が現れた。

スーツを着込みピッチリと整えた髪、ビジネスバッグを携えた彼は今ここに参上したのだ。

まず一軒目、彼はおでんの屋台に立ち、こう言った。

「商談に来ました」

そしておもむろに店員から菜箸を奪い、皿に具材を詰めてゆく。

だいこん はんぺん 巾着 巾着 ポンデリング 、である。

「おいてめえ、何しやがる」店員が男に掴みかかろうとするも、男は一言

「商談に来ました」

とだけ言い、恐ろしく華麗な身のこなしで店員の腕をとり、そのまま捻り上げて関節をきめ、そのまま押し通した。骨の折れる鈍い音が響く、倒れる店員、おでんを食べる男。

隣の屋台でお好み焼きを焼いていたおばさんが叫ぶ

「警察!警察を呼んで!」

それを見た男が動く。

「商品につばが飛ぶのはいただけない」

懐から出したヘラでお好み焼きをすくい、店員のおばさんに投げつける。次々に、次々と。

鉄板のお好み焼きが空になる頃には、そこにはおばさんの死体だけが転がっていた。

おでんを食べる男、そこにやって来たのは警官隊だ、誰かが通報していたらしい。

「動くな!」

警官隊は警棒を抜き、男に向かって構える。なおも男はおでんを食べている。

飛びかかる警官隊、おでんを食べながら一人一人を制圧してゆく男。やがてそこには警官隊の死体の山が築かれた。

現れる警官隊の応援、もはや彼らは拳銃を抜き、威嚇射撃をする段階だ。

そして男は言った。

「商談成立です」

その瞬間、光と共に顕現したのは釈迦如来であった。人の2倍ほどあろうその身の丈に、誰もがただただその光景を眺めるほか無かった。

釈迦如来とスーツの男は、おでんの調理容器を持ち、光の中に消えていった

これが後に、釈迦如来の権限として歴史書に記された事件の全てである。

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