存在の重みに耐えられない軽さ②

「俺の名はトグサだよろしくな。」

学生帽と夜の暗さででよく見えなかったが、好青年の顔立ちだった。自分も篠宮も挨拶を済ませ、目的地に向かう道中にいたが、あと数百メートルのとこまできたが辺りが真っ暗だった。

「おい、これもお前たちの仕業か。」

「いやいや、違うわよそっちの仕業じゃないのかしら?」

民家に溢れる光どころか街灯一本も点いていなかった。3人は各々ライトをつけ目的地に向かった。

「ちなみにその幽霊屋敷はあとどれくらいかかるのかしら♪」

手錠をかけられてるのに上機嫌な篠宮だった。

「なんで君は楽しそうなの。」

「もうすぐ会えると思って♪」

「そんな呑気でいいのか。ぶっちゃけお前にかかってるんだぞ」

「大丈夫わよ。現代の奇術師ハリー・フーディーニこと篠宮が幽霊を暴いてあげるわ♪」

篠宮がおちゃらけてるうちに3人はとうとうゴーストが住まう家にたどり着いた。

見た目は普通の一軒家で2階建ての作りになっていた。

「じゃあ入ろうか。」

そうトグサは言い玄関に入ると中は暗く人が住んでいる様子はなかった。各々ライトで周りを照らし、どんどん中に入った。そろそろ5月に入ろうとしているのに何故か背筋が凍るような寒気と肩が重かった。。。っておい、なんで篠宮は自分の後ろにピタっとくっついてんだ。もしかして……ヤンは篠宮を試すつもりで言った。

「あのさ、、、手分けして探そうか。」

そう言うと篠宮は慌てて言った。

「あ、あなた馬鹿なの!み、皆んなで探した方が漏れなく探せるじゃない?!」

いつも凛としている(たまに情緒不安定な時もあるが……)篠宮が声を荒げてた。その後ろにいたトグサも続けた

「そ、そうだぞ!い、一緒に探すぞ」

お前も怖いんかい!

この家の一階はリビングダイニング、キッチン、トイレ、風呂があったが、一通り見て特に人がいたような形跡は見当たらなかった。

「じゃあ2階見に行こう」

2階には部屋が3つあり、それぞれ子供部屋のようなレイアウトで、いたって普通の部屋だった。

「おい、いねーじゃん。いないことが分かったし帰ろう!」

そう言ってトグサは踵を返そうとしたときヤンは言った。

「ちょっと待って、まだ屋根裏見てないから行こう。」

「ええー、もういいじゃん帰ろう!」

篠宮は駄々をこねた。

「いやいや、まだゴーストの手掛かり掴めてないし」

2人はしぶしぶ家具をかき集め、階段状にし無理矢理天井に穴を開け覗いてみるとモノ一つない状態だった。

「何もないじゃん。帰るぞ。」

トグサはそそくさ帰ろうとしていた。正直、自分も最後の最後淡い期待をしていたが、モノ一つない状態だった。隠れる場所も死角もないと手掛かりが一つもない。終わった。。。そう思った時

「トグサさんあちらに真っ直ぐ銃を撃ってもらえるかしら?」

篠宮は怪訝そうな顔で屋根裏部屋一帯を見ていた。

「どうしてだよ。」

「いいから♪」

そう言って銃を撃つとそこには衝撃的な光景だった。空間にヒビが入ったような、もっと例えるとさながら○ンピースのグラグラの実のエフェクトみたいで、ガラスのような音を立てながら崩れた。

「おいおい、どういうことだってばよ」

半笑いしながら驚くトグサに篠宮は答えた。

「鏡よ♪よく手品で箱にモノを入れる時に消えるマジックがあるでしょ、あれの部屋バージョンってこと♪」

「なるほど、よく分かったな。」

「ライトが3つもあって、ちょっと分かりづらかったけど、さっきの1階や2階と比べて部屋が明るかったから、もしかしてと思ってね♪」

3人は呑気に話してると奥にまた屋根裏の空間があった。そしてそこには窓から街頭か月の光か照らされた青白い人影が一つ、白いフードを被り、黒いマスクをした人物がそこに立っていた。トグサはすぐさま銃を構えた。

「お、おい手を挙げろ。さもなくば撃つぞ」

しかし男は反応しない。と思いきや男は壁の窓を突き破って外に逃げた。

「おい、追うぞ!」

3人もすぐ窓から出てゴーストを追った。

「仕方ない、動きを封じる。」

そう言って准一は銃をゴーストの足に撃ったが外れた。

「おい、ノーコン狙って撃て!」

「誰がノーコンだ!射撃の腕ならそこそこあるんだぞ。現にあの時も篠宮の銃を弾くほど精度がいいんだぞ。。。20メートル以内ならな。」

「なおさら当ててくれ!ゴーストの距離20メートルくらいだぞ!」

「分かってる!でもさっきから当たらねんだわ」

ヤンとトグサで押し問答している間、10メートル後ろで篠宮は息絶え絶え走っていた。

「ぜはぁ……おい、お前ら……ぜはぁ……早す、うわぁ」

篠宮は足が空回って転んでしまった。ヤンは篠宮の所に駆けつけ、すぐにトグサに言った。

「後から追いつく、ゴーストを追ってくれ。」

「分かった。」

「おい、大丈夫か篠宮?」

「ばかもん、あれほど背中にくっついて指示出していたのに離れたら指示出せないだろ。」

「ああ、すまない笑」

「あれを追っても意味がない、今すぐさっきの家に戻るぞ。」

「はあ、なんでだよ。」

「あれは本体じゃない。」

「なんだって!」





一方トグサはゴーストに迫っていた。

「くそ、なんで当たらねーんだ。」

銃を乱射してもダメージ判定が出ないなんてあり得るのか。そう考えたトグサを目の前にゴーストは振り返りトグサにむかって一直線に走って来た。

おいおい、真っ向勝負という訳かい。いいぜ、近接戦闘もこっちには自信があんだよ。

そしてトグサは拳を振りかぶりそのままゴーストの顔に向け殴ったが、感触がない。トグサの拳は空を切り、ゴーストはトグサをすり抜けてそのまま逃走した。

おいおい仮想現実なのに本物の幽霊がいるのかよ。

トグサは腰を抜かし地面に突っ伏した。



幽霊屋敷の屋根裏にてフードを被った男は床に座ってテレビを見ながらつぶやいた。

「なんでまたこんな目に遭わないといけないんだ。僕が何したって言うだ。はあ……そろそろ引っ越すか。」

そうぼやいた時だった。

「なるほど、二重底ならぬ二重壁ってことね♪それでどこに引っ越すのかしら♪」

壁をぶち破って2人は屋根裏部屋の片隅の片隅に人1人分の小さな部屋にいたゴーストと対峙した。

「き、き、君たちさっきゴーストを追ってたんじゃないのか?」

幽霊部員ゴーストはびっくりして腰を抜かしのけぞっていた。

「ええ、風紀委員が1人追って行ったけど途中で引き返したわ♪あのゴーストが立体映像ホログラムだと気づいてね♪」

「どうやって気づいたんだ」

「簡単よ♪行く途中街灯が点いてなかったのに窓から出たら街灯が点いてた。あの街灯はただの街灯じゃなくて立体映像ホログラムを映すための装置でしょ♪」

「君たちは僕を連行して何が目的なんだ。ただ部屋でゲームしてただけじゃないか。このゲームは自由に何してもいいからゲームをしてただけなのに徴兵に行かなかっただけで罰則なんておかしいじゃないか」

幽霊部員ゴーストの話はチグハグで主旨が分からなかったが、もしかするとさっきの話に出てきた風紀委員から自分たちのことを風紀委員と勘違いしているかもしれないと気づいた。

「ん?君は自分たちのことを風紀委員か何か勘違いしてないか?」

「違うのかい。」

幽霊部員ゴーストはキョトンとした。

篠宮が前に出て幽霊部員ゴーストに手を差し伸べた。

「私たちと一緒に来てちょうだい♪」

しかし幽霊部員ゴーストは顔を背けた。

「知ってるよ。僕を見下して笑いもののおもちゃにするか、さんざん奴隷のように利用するんだろ。」

「初対面の人にそんな失礼なことするわけないじゃない♪」

いや、自分に対して結構、無茶振りが多いけどななんてヤンは思っていた。ただ幽霊部員ゴーストは終始怯えていた。

「そうかい、そうやって近づいて僕の心を傷つける奴は何人もいたよ。だから、ほっといてくれよ。僕自身誰にも迷惑かけてない静かに暮らしたいだけなんだ。」

幽霊部員ゴーストは拒絶した。篠宮の伸ばした手は宙に浮かんだまま、ぎゅっと握りしめた。

「たしかに、私たちは天下統一を目指すために仲間を探してる。その天下統一のためにあなたの能力を借りたいんだけど君から見れば私たちの行為は“利用“に見えるでしょう。ただそれ以上にあなたと仲良くなりたいんだ。最近までは君と同じ考えだったけど、一匹狼だった私が誰かと過ごすのも悪くないってそう思えたんだ。だからあなたが“必要”なんです!!」

そしてもう一度篠宮は手を差し伸べた。幽霊部員ゴーストは目に涙を浮かばせながら言った。

「能力なんて言うけどそもそも買い被り過ぎたよ。今まで学校、家族、仕事から逃げて、逃げて、逃げ続けた人生で何も身につけてないニートだよ。」

それを聞いてヤンも手を差し伸べた。

「じゃあ、なおさら君を迎えたい。君の逃げるという行為は戦争において大事なんだ。百戦百勝する軍師はこの世にいない。必ず撤退しないといけない状況がある。だから君の逃げるという危機回避能力と危機察知能力はこのゲームにおいて必ず必要な能力なんだ。」

幽霊部員ゴーストはずっと肩の荷に乗っかっていただろう重荷がすっと消えたように感じた。

「こんな社会的にも生物的にも弱者な僕が多分君たちの期待に答えるような活躍なんてできないし、100%足を引っ張るけどいいの?」

そう尋ねると篠宮は答えた。

「それはないな。今回の鏡のトリックも街灯を使った立体映像ホログラムも生存競争を生き抜くための知恵を他のプレイヤーには持ち合わせていない。その圧倒的な才能の持ち主だってもう既に証明されている。」

続けてヤンも言った。

「弱者なんて言ってるけどそもそもの話し最初から現実世界は狂ってるんだ。嫌なことを強制して、生活を人質にされた世界は間違っている。だから君は社会的弱者ではない、正常に反応して対応しただけに過ぎない。世間では現実逃避だのニートだの言われているがそれは君は危機察知能力が優れていること。」

幽霊部員ゴーストは2人の手を取り立ち上がった。

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