第一話 期待と不安
そんなある日のとある荒野にて
無数の人の屍がある。その屍はある一定の円を描いて存在しており、その円の中心には大きな魔方陣のようなものが描かれてある。
そして今、光の中からその魔方陣の中心に、一人の男が現れる。
「痛っっ!なんだ?頭が・・痛い・・・こ・・ここは?」
男は痛む頭を押さえながら周囲を見回すが、自身の見慣れた物は何一つとしてなかった。
「なんだこれ・・・線?円型の・・陣?ん?人?人が倒れて・・・ひっ!死んでる?マジか?ぐっ・・・うぇぇぇぇ!」
男は見慣れない周囲と痛む頭痛に耐えて足元を見ると、奇妙な線があり、その線を目で追っていくと何か円型の形をしている事がわかった。
だがその線を追っている際に、周囲に無数に存在する人であったであろうモノを見て、急に顔色が変わる。
人の原型は留めているが、どう見ても生きているような風貌ではない。
あまりに見慣れない光景に男の体が拒否反応を起こす。
「はぁはぁはぁ・・・つかマジでなんだこれ?もしかして魔方陣とか?ってことはこの手の展開ってまさか・・・異世界召喚的な?ははっ、冗談だろ?そんなのは夢と小説とゲームと妄想の世界で充分だろって可能性結構いっぱいあったな、ははっ・・・マジで夢じゃない?」
何が何だかわからず思わず目を反らしたい光景ではあったが、このまま何もせずにいる訳にもいかず、何か情報を手にするために更に周囲を見回す。
「リアルに考えて魔法とかない世界から来た俺がその手の世界で何か出来る可能性なんてミリ単位でないぞ。召喚前のテンプレ神様とか出会ってないし、チート能力貰った感じでもないし」
うーんと唸りつつ、ふと思いついたかのように喋り出す。
「そうだ!この手の展開で異世界召喚とくれば、ステータスオープン!とかいえば自分のステータスが見れたり・・・とか他には・・あれだ!適当に岩とかに向かって鑑定!とかやれば情報が出たり・・・とか後は・・ならこれ!異世界物と言えばこれだろ!アイテムボックス!!」
・・・・何の反応もなく風だけが自身の周囲を過ぎ去っていく。
「なら魔法は!?こんな感じで手をかざして・・・ファイア!・・・呪文が違うだけかも、メラ!フレイム!フレア!アギ!ハリト!ヴァーン!イグ!」
やはり何の反応もない
「・・・・・・・君は何も見ていない、いいね?・・・バカやってないでとりあえず気味悪いし、魔方陣ぽいのから出るか」
嘔吐した割には意外と落ち着いているのか、胆が据わっているのか、単に何も考えてないのか「もしかして詠唱とかいるんだろうか・・・」とブツブツ言いながらも魔法陣から動き出す。
これ以上何もないとは思いたいが、自分がこの訳のわからない状況になったであろうと思われる場所からはとにかく早く離れたかった。
また何か起こったらたまらないからだ。
だがあまりに何も変化がないため、頭が急速に冷静になるのを通り越して不安になってきたようで、先ほどまでの口数の多さが急に減りだした。
「死体・・・触りたくないが、これが例え現実だろうと夢だろうと、この手の展開なら、まずは情報を集めることが最優先・・・さ、触って生き返ったり動いたりしないよな?」
周囲を見回して見たが一面荒野で、岩や石、枯木のような物しか見当たらず、それ以外で情報になる物はもう一つしかないと諦めて、恐る恐るといった様子で倒れている死体に向かって手を伸ばす。
調べると何やらメモのような紙切れを見つけたが、何が書かれているのかわからない。
「何かの図形?記号か?もしこれが図形じゃなくて言語だとしたら、完全に文字が読めないパターンだな。それだけならいいが言葉もわからんパターンだとすると本気でヤバいな」
そんな風に考えて不安に思っていると、突如として地響きのような音が聞こえてきた。
ふと周囲を見回すと砂煙のような物が舞い上がっており、更にこちらに向かって小さな黒い何かが近づいてきているのがわかった。
かつての世界ではそんな場面を目にするようなことはなかったが、とにかく大勢の何かがこちらに向かっているという事だけはすぐにわかった。
だがそれが何かという事がわからなく、情報も全くないため何をどうすればいいのかがわからなかった。
そうこう悩んでいる間にもどんどんとそれは近づいてくる。
どうやら馬らしき生き物があり、それに人が乗っているのだろうがかなりの数だ。
「な、何だ!?何か来る?どこか!隠れる場所はないのか!?」
咄嗟に身の危険を感じて周囲を見回すが、そもそもが荒野で大きな岩などはほぼ全てが崩れたりしており、まともに身を隠せるような場所はどこにもなかった。
「くっそ・・・どうする?相手がまともな奴なのかどうかによるが、どちらにしろ言語がわからなかった場合は話しようがないし、俺が殺したと思われるかもしれない。くそ!とりあえずまだ意識がないように倒れたフリするくらいしか思いつかん!」
いきなりの展開に頭が回らず、かといって言語がわかるかも不明の中、いきなり会話をするような勇気も出ず、結局その場でうつ伏せになり目を瞑る。
でも気になる為こっそりと薄眼で様子を窺っていると奇妙なローブを着た男と女、それに鎧姿の男が多数近づいてきた。
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