第5話 ちょっと前、長男出産後の姑と私

 約12時間の陣痛の果てにようやく終わった初めての出産。

 産まれた命への感動とか、産まれたた我が子にかわいいと思う気持ちとか、そんな物はなく「とにかく終わった〜!」という気持ちで精もこんも尽き果てていた。

 2時間は眠らず仰向けでいなければいけないという助産婦の言葉を(眠ってしまうと身体の不調に気がつかず最悪の場合、誰にも気がつかれないうちに死亡…)必死に守って疲れきった身体と脳を必死で覚醒させていた。

 姑が病室に入ってきた。結婚と同時に同居しているとはいえ、その期間はまだ1年。そこそこに緊張があり、そこそこに慣れてきた近頃だ。

「おつかれ様だったね〜。」

とニコニコ顔で話しかけてきた。私も初出産だったが彼女にとっても初孫、素直に嬉しそうだ。

 眠気と闘うための味方が来たと思って愛想よく応えた。

するとふと姑が言った。

「誕生日が覚えやすいからいいわね」

 当たり前のように覚えやすいと言う姑。

私は「?」の顔でしばし沈黙した。

 日付を頭の中でゴロゴロと転がしてみる。

何かの記念日だっけ?少なくとも祝日ではない。急な休みなどとれない夫は仕事に行っている。

 次に月と日という字を消して数字だけを並べてみるがゾロ目でもなければ連番でもない。

 語呂合わせの単語を考えてみたが思いつかない。

 分からない。何故に覚えやすい?

「…? …覚えやすい?なんで…?」

思わずタメ語だ。

が、そんなタメ語など気にもとめず姑はこれまた"何故に分からない?“という顔で答えた。

「なーに言ってるの、覚えやすいじゃない」

そして再びの一瞬の沈黙。そして諦めたように姑は続けた。

「12月14日と言ったらあなた、ほら、忠臣蔵の討ち入りの日じゃないの。覚えやすいわよお!」

 いや、知らんし!

 忠臣蔵って、なんやねん!

 私だって忠臣蔵の話しぐらいは聞いた事あるよ。たしか刀を振り回した罪で死刑になった主君の仇を討つ話しだったよね。たぶん…その討ち入りの日? そうなの?っていうか、そんな討ち入りの日って決まってたの?それが12月14日なの?

「あ…忠臣蔵…そお…なんだ…はは…あはは」

「そおよぉ…ふふふ…覚えやすいでしょ?」

「はい〜…」

 いや、逆に私はこれで忠臣蔵討ち入りの日を覚えたわ…

 おかげで少し目が覚めました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る