醜女の林檎
紫 李鳥
第1話
大谷由紀恵がレストルームで手を洗っていると、仲良し三人組の佐代子、孝子、美那が入ってきた。由紀恵を見た途端、三人は顔を見合わせて嘲笑した。
そんな三人を無視して由紀恵が出ようとした時だった。
「あっ、そうだ。大谷さんも行かない?」
いつも相手にせず、ろくに話もしない佐代子が突然声をかけてきた。
「……え?」
呼び止められて立ち止まると、振り返った。
「えー? 大谷さんも誘うの?」
他の二人が嫌な顔をした。
「ホストクラブって言って、ステキな男がたくさん居るの。楽しいわよ」
佐代子は、初心者の由紀恵に分かりやすく説明した。
「そったどご行ったごどねはんで 」
「アッハハハ……」
由紀恵の
「大丈夫よ、男の人がなんでもしてくれるから、座って呑んでればいいの」
佐代子が由紀恵の耳元に囁いた。
「すたばって……」
「私に任せておけば大丈夫だから。ね、行こ」
「……うん」
結局、由紀恵は佐代子の誘いを断れなかった。
「じゃ、後でね」
レストルームを出ていく由紀恵に手を振った。途端、
「なんで、あんなブス連れていくのよ」
モアイ像顔の孝子が不平を溢すと、
「そうよそうよ」
と、ホームベース顔の美那が相槌を打った。
「考えてごらんよ、あれほどのブスと一緒だと、私たちが引き立つじゃないよ」
リーダー格の佐代子が思いつきを述べた。
「……なるほど」
二人は、佐代子のアイデアに納得すると、目を合わせて含み笑いをした。
退社時間になり、めかし込んでいた三人は、時代遅れのツーピースを着た由紀恵をほったらかしてさっさと会社を出た。
通りでタクシーを拾うと、三人は急いで後部座席に乗った。残された由紀恵は助手席に乗るしかなかった。
三人は、由紀恵を無視して、ぺちゃくちゃ喋っていた。取り残された由紀恵は一人、暮れ泥む街の光景を目で追っていた。
――店の前にタクシーを停めると、三人はいそいそと、「ラブリー」という店に入っていった。残された由紀恵がタクシー代を払うしかなかった。
階段を下りると、薄暗い店内から、
「いらっしゃいませ!」
と、大勢のホストが出迎えた。
「どうぞ、こちらへ」
若いホストが由紀恵を誘導すると、ホストたちと騒ぎ立てている三人の席に案内した。
由紀恵がボックスソファの端に座ると、
「サヨちゃん、紹介してよ」
おしぼりを持ってきたオネエ言葉のホストが由紀恵のことを言った。
「あ、オオタニユキエさん」
佐代子は面倒くさそうに言うと、隣に座っているホストと話の続きをした。
「あら、ユキエちゃんて言うの? 僕、ヒロシです。よろちく」
「飲み物何する、スルーする? なんちゃって」
「あまり呑めねの」
「じゃ、甘いのがいいわね。果実酒にしましょう」
ヒロシはヘルプのホストにカシスオレンジを言いつけた。
「ね、和弥は?」
話の面白くない隣のホストを
「今日も同伴よ」
そのぐらい我慢しなさいよ、と言わんばかりにヒロシが吐き捨てた。
「もう……」
佐代子は顔をしかめると、ブランデーを
「ね、後でダンシングしない?」
我が儘な佐代子を尻目に、ヒロシは上半身を軽く動かすと、由紀恵との会話を楽しんだ。
「……踊ったごどねはんで」
カシスオレンジを
「おらが教えてやっから」
ヒロシも
「ハッハッハッ……」
由紀恵はヒロシと目を合わせて笑った。
「おめさん訛ってらよ」
自分のことを棚に上げて由紀恵がバカにした。
「ユキエのほうが訛ってるだ」
ヒロシが調子に乗った。
「おめのほうが訛ってらってば」
「ユキエのほうだ」
「ヒロスのほうだって」
「二人の訛りに乾杯!」
ヒロシはそう言って、由紀恵のグラスに自分のグラスを当てた。何やら楽しげな二人に、佐代子たちは
ヒロシとの会話を楽しんでいると、
「和弥っ!」
佐代子の大きな声がした。笑顔で手を振る佐代子の視線を追うと、そこには、モデルみたいなスレンダーな女性を伴った、これまた俳優みたいな美男子がこっちを見ていた。
「いらっしゃいませ。ちょっと待ってて、すぐ来るから」
和弥は佐代子に挨拶すると、由紀恵に笑顔で会釈した。由紀恵はドキッとすると、乙女のように恥じらって俯いた。
「彼が、当店ナンバーワンの和弥よ。いい男でしょう?」
初めて来店した由紀恵にヒロシが教えてやった。
「ヒロスさんもながながい男だ」
「ま、うれしい。ユキエちゃんだけよ。そったらこと言ってくれるの」
「そったごどねだびょん」
「そったらことあるのよ」
「ねって」
「ねくねぇーって」
「ハッハッハッ……」
由紀恵はケラケラ笑った。盛り上がっている二人に、佐代子たちは面白くない顔をした。
「楽しそうだね。いらっしゃい」
由紀恵の横に座った和弥から、何だか
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