第272話バレンタイン企画チョコ作り対決3
「あわっちはなに作ってるのー?」
ダガーちゃんの悲しいミスで開幕から手が止まってしまったが、改めて皆調理を始める。
私は生クリームを火にかけようと鍋に注いでいたのだが、晴先輩はその動作が気になったようで、質問をしながら写真をパシャパシャと撮ってきた。
「私は生チョコを作ろうと思っています」
「生チョコ!」
ふっふっふ、そう、これぞ私が悩んだ末に選び抜いたこの企画を突破するレシピなのだ。
まず私は料理ならそこそこ出来るがお菓子作りはほぼ経験が無い。てか、お菓子作り面倒過ぎる、こんなの作ることそのものが趣味な人くらいしか続かないんじゃないの……?
だが、そんな私でもこの生チョコは作った経験があった。なぜなら簡単だったから。
基本的にチョコを温めた生クリームと合わせて型に入れ冷やし、ココアパウダーなどの粉を振りかければそれっぽくなるこの生チョコ。偶然余った生クリームの消費法として作ってみたのだが、思った以上に美味しく出来て自分でも驚いたものだ。
そして! この企画に生チョコを選んだのにはもう一つ大事な理由がある!
それは『全く知らない人から見たらおしゃれに見えるから!』
そう、この生チョコ、絶妙なネーミングや特殊な口触り、洗練された見た目から、なにも知らない人にとっては手の込んだレベルの高いお菓子に見えるのだ!
料理が出来てお菓子まで作れる女を嫌いな男なんていないでしょ! ここで評価を爆上げして面白女の清楚ギャップでリスナーさんをメロメロにしちゃおうって寸法よ!
遂に清楚がギャップになっちゃった! 元は清楚そのものだったはずなのにね! あはははは!
……まぁそんなわけで、簡単な作業なのがバレないようにところどころカッコつけながら進めていこう。そう、今の私の姿はまるで一流パティシエ。
早速火を点けましてー。
「なるほど! 実は簡単に作れるのに知らない人から見たらおしゃれに見えるこの企画を勝つのにピッタリの生チョコを選ぶなんて、流石あわっちだ!」
「もう作るのやめるううぅぅうぅぅぅ!!!!」
私は調理を投げ出しキッチンの隅に飛び込んだ!
「なんで考えてたこと全部言っちゃうんですか!? もうどれだけ上手に作っても計算高い嫌な女になっちゃったじゃないですか!!」
「ご、ごめん、あまりにもドヤ顔で調理するから思惑が分かりやす過ぎて言っちゃった」
「言っちゃったじゃないですよ! 分かってたんなら私をもっと料理上手って讃えろよ! よいしょしろよ! 清楚にしろよ! もう私はこんな手でも使わないとリスナーさんから純粋に褒められないんだぞ!」
「だって生クリームを鍋に注ぐ動作すらカメラ意識でうざいくらいかっこつけてやられたらツッコミたくもなるよ! 清楚にしろっていう割にもう作り方が清楚じゃないんだよ!」
「作り方が清楚じゃないってなんだ! 晴先輩のばーか! あーほ! まぬけ!」
「悪口のボキャブラリーがナイフちゃん」
「あー?」
「実家で声が低そう! FEのジ○イガンポジション! 体細胞コオロギ女!」
「あれ、今メタルキ〇グでも倒した? 突然のレベルアップでボキャブラリーがジャックナイフちゃん並みに……」
「それ誰ですよ~?」
「ああごめん、今の君はボスだったね」
「私は過去にジャックナイフと呼ばれたこともないし今がボスでもないのですよ!」
コメント
:ばれっばれやん
:危うく騙されかけたわ……
:もう騙そうとしてる時点で清楚ではないのでは?
:清楚とは内面からにじみ出るものである
:すっごい高いところから生クリーム落としてたんやろうなって
こんなはずじゃ、こんなはずじゃなかったのにぃ!
勝ちを狙った一流パティシエモードが裏目に出たか……もっと普通に作れば晴先輩も見逃してくれたかもしれないのに!
「まぁまぁ淡雪ちゃん、ネコマは生チョコいいと思うぞ」
ネコマ先輩がわざわざ傍に来て慰めてくれる。落ち込んでるときは傍にいてくれる優しいネコさんだ。
「にゃ。きっと晴先輩だってあわっちが作る生チョコ食べたいよ」
「うんうん! 食べたい!」
「……本当ですか?」
「しかもさ、よく考えてみな? ダガーちゃんなんてカカオ豆だぞ?」
「それもそうですね!」
「師匠(ガーン)!?」
そう聞くと俄然元気が出てきた。うんうん、まだ負けたって決まったわけでもないしな。作れないよりはよっぽどいいわけだし。
再びコンロの前に立つ。ダガーちゃんもそうだったがかっこつけると大抵ろくなことにならない、今度は粛々とやろう。
「……大変だあわっち」
「え? どうしましたか?」
「どうやらあわっちだけじゃなくシュワッチのチョコも見たいってコメントが多数流れているみたいなんだ」
「えぇ……なんですかそのリクエスト……」
「なにか作れないか?」
「ええ!? 今からもう一品ってことですか!?」
「簡単なものでいいからさ! 無理かな?」
急に言われても……いや、まぁなんとかなるか。
「あれだったら材料追加で買い出しに行っても」
「いや、大丈夫ですよ。マネちゃん! ちょっと控室にある私のカバン持ってきてください!」
鈴木さんがダッシュで持ってきてくれたカバンの中から、一本のストゼロを取り出す。
「……あわっち、なんでカバンにストゼロ入ってるの?」
「携帯用ストゼロです」
「ギャグ?」
「大真面目ですよ。清楚な私がそんなギャグするわけないでしょう。今日は企画が伏せられていましたから、もし突然シュワになれって言われても対応できるように持ってきていたんですよ」
「驚異的なプロ意識だ! 尊敬だよあわっち!」
「まさかカバンにストゼロを入れることでプロ意識を褒められる日が来るとは思いませんでしたよ。まぁいいです、これと溶かしたチョコを混ぜてカクテルみたいにすればシュワっぽくはなるかと」
「ありがとう! やっぱりあわっちは頼りになるね! 助かっちゃった!」
ふぅ、なんとかなってよかった。備えあれば憂いなしってね。
一安心と安堵の息を吐いた私。しかしそれを見たエーライちゃんがやけにニヤニヤとした表情でこう言った。
「でも、それってほぼストゼロだからこちらで商品化は不可能だと思うのですよ~! ある意味カカオ豆以下なのですよ~!」
「!? し、師匠! まさか俺を気遣って!?」
「ギャグです! 笑いを取る為だけに持って来ました! そーとでーも気持ちよーくなーりたーいな! はい! どこでもストゼロー! これでこのストゼロの出番はもう終わり! カクテルなんて無かった! いいですね!」
「師匠(ガーン)!?」
コメント
:全力否定で草
:清楚な私がなんだって?
:清楚を捨ててカカオ豆に勝った女 ¥10000
:なにと戦ってんだよ
:さっきからダガーちゃんがかわいそかわいい
:なんてもん小学生に出してんだこのロボ狸
:秘密道具が毎回ストゼロのドラ○もんとか風刺的過ぎる
<相馬有素>:私も参加したかったのであります……
:君はあわちゃんのチョコ食べたいだけでしょ
なにを勘違いしたのか感動した様子で私を見てきたダガーちゃんだったけど、ごめん、カカオ豆より下は受け入れられないよ……。
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