第211話シュワちゃんのお悩み相談所3

「え、今髪の毛って聞こえた気がするんですけど、そんなわけないですよね?」

「いや合ってるよ、髪の毛髪の毛」

「あの頭に生えている?」

「それ以外の毛は髪の毛とは言わないだろう」


 あっけらかんとした聖様の様子に頭の認識が遅れたが、つまりは話を聞く限りこういうことだ。

 シオンママが聖様の髪の毛を全て剃り落とそうとしてる――と。


「いやいやいやいやいや! おかしいでしょ!? なんでそんな話になった!? もうふざけたりせずにちゃんと話聞いてあげますから説明してください!」

「今度は急に優しくなってどうしたんだい? えっと、この前聖様が髪形を変えようかとシオンに話題を振ったら、赤ちゃんスタイルとかどう?ってなった流れだけど」

「いやだからおかしいんだって! 頭ツルツルにするってことですよねそれ!?」

「シオン曰くほんのちょっと短い毛を残すのが乙らしいよ」

「知らんわ!!」


コメント

:!?

:これはやばい、限りなくやばい

:シオンママ……近しい人には更におかしくなるんだな……

:どうでもいい悩みかと思ったらガチガチなやつが来て草引っ込んだ

:ナチュラルに下の毛かと思ってしまった、すまない。。。

:下の毛だと思っていた人、煩悩を取り払う為に頭丸めて出家しましょう


 え、なにこの状況? おかしな点がありすぎるんだけど!?

 色々聞きたいことがあるけど、まず第一は――


「なんでそんなこと言われて平然としていられるんですか!? 聖様も髪の毛無くなったら困るでしょ!?」

「まぁそれはそうだよね。聖様も女の子だし、この深紅の髪は自慢のアイデンティティだからね。そう思ったから一旦返事を保留にしたわけさ」

「じゃあ!」

「でもさ、シオンがそれを好きなんだったら案外悪くないかなーとも思ってね?」

「どうしてそう思っちゃったの!?」

「どうしてって……ほら、聖様案外惚れた人には尽くすタイプだからさ」

「ぇぇぇ……」


コメント

:すごいな……これが愛の力か……

:こんなてぇてくない悩みで愛を見せて欲しくなかった

:聖様の意外な一面が見えた


「もう一度よく考えてみましょう? 確かに現代は多様性や個性を認める傾向が強くなってはいますけど、ほぼ全剃りはいささかファンキーすぎやしませんか? 髪は女の命なんていう言葉もあるくらいですし……」

「あー、やっぱり淡雪君もそう思う? 流石の聖様もこれは悩んでたんだよね」

「取り返しがつかないことですし、悩むくらいならやめときましょう。そうだ、今からシオンママに通話繋いでお断りの連絡とかしましょうか? 乗り掛かった舟ですしサポートしますよ」

「淡雪君がめっちゃ優しい……これは傍から見たらそれだけの悩みだったってことだね。ありがとう、それじゃあ今解決までいってしまおうか。丁度今ならシオンも暇だと思うし」

「了解です、それじゃあかけてみますねー」


 シオンママに通話をかけてみると、僅かワンコールで繋がった。


「あ、シオンママ? 今配信中なんですけど、少し大丈夫ですかー?」

「うん大丈夫だよー! と言うか配信見てた!」

「あ、本当ですか! それなら話が早いですね。ほら聖様、出番ですよ」

「承知した。あーシオン? 聞いてたと思うけど、やっぱり聖様は自分の髪に結構愛着があってさ、ご希望に沿えなくて悪いけど剃るのは厳しいかなーって」

「うんうん、分かった!」


 お、予想通りではあったけどあっさり首を振ったな。これは私いらなかったかな?


「というかね、それ実は半ば冗談で言った部分があって……まさか聖がそこまで私の好みに合わせようとしてくれるだなんて思ってなくて、ちょっと感動しちゃった」

「ははっ、なんだそうだったのかい? もう、この聖様はシオンが喜んでくれることが至上の喜びって知らなかったのかい?」

「キャーなんてカッコイイ彼女赤ちゃんーーーー!! でもね、嫌だと思ったことはちゃんと言うべきって私思うの。じゃないと関係が歪になっていっちゃう気がして。だから聖もこれからは疑問に思ったことがあったらちゃんと口にしてほしいかな。今更その程度で拗れる私たちじゃないでしょ?」

「うん、その通りだね。これからはそうするよ。流石はシオンだ、聖様の見えないところが見えている」


コメント

:あっ、てぇてぇ……

:てぇてぇけど彼女赤ちゃんってなんだ?

:この二人マジででれっでれだな

:仲良し

:デビュー当初はまさかこうなるとは予想できなかった


 ……うん、これはもう大丈夫そうかな。


「はいイチャイチャはそこまで! この枠では企画の進行があるので、後はお二人でどーぞ」

「おっと失礼した。ありがとう淡雪君、おかげで悩みは解決したよ」

「私からもありがとー! 今度目いっぱい甘やかしてあげるね!」

「いえいえ、こちらこそありがとうございましたー」


 二人が配信から去っていく。

 ふぅ、相変わらず困った先輩たちだぜ。

 …………あれ。


「ちょっと待って。なんか最終的に私の配信を利用してのろけを披露されただけだった気がしてきたんだけど!?」


コメント

:草

:まぁまぁwww

:お幸せそうだからええやないか笑


「むーーーー!! やっぱり当相談所は聖様お断りだー!!」

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