第172話ライブオンオールスターコラボ・監禁人狼5

「な!? え、なぜ!? ステルスモードの私が見破られた!?」


数秒無言だった空間に、この企画が始まって自己紹介以来のちゃみちゃんの声が響く。

そう、自己紹介以来なのだ。記憶をどれだけ探ってもこの第一回戦中にちゃみちゃんが喋ったシーンが一度も見当たらない。

ちゃみちゃんは完全に姿を消していたのだ……でもなぜ? なぜちゃみちゃんは発言しなかった? そしてなぜ私たちはそのことに気が付かなかった?


「どうしたのちゃみちゃん? そんなに慌てて?」

「ひ、光ちゃん……いつから……私が見えていたの?」

「ん? 勿論最初からだよ! ちゃみちゃん口下手だから人いっぱいの場所で大丈夫かなーってずっと心配してたんだけど、あまりにも喋らないから光が助け舟を出したってわけさ! ふふん!」

「最初から……ですって……」


唖然といった様子のちゃみちゃん。いや、ちゃみちゃんだけではない、光ちゃん以外の全員が驚きを隠せないでいる。

この状況は……一回目の議論の時、あの時から光ちゃん以外の全員がちゃみちゃんの存在を認識できていなかったということだ。

それはつまり――今までの推理が根底からひっくり返るに十分足りる事象だった。


「だ、誰か!? ちゃみちゃんの姿を見た人は!? 今じゃなくてもどのタイミングでもいいから、ちゃみちゃんを動向が分かる人!?」


シオン先輩が慌てて声をあげる。だがそれに反応する人はいない。

そんなことがありえるのか? 声だけじゃなく姿だけでも見た人がいないなんてことがこのゲームで……。


「じゃ、じゃあ光ちゃんは!?」

「んー……ゲーム開始直後にどっかに行ったのは見た気がするけど、その後は光も分からないですね……」

「そんな……一体何が起こって……」


存在に気が付いていた光ちゃんですらゲーム上では見ていない――だと――


「はっ!」


その時、私はちゃみちゃんのある特技について思い出した。

ちゃみちゃんは誰もが認める人見知りである。できる限り慣れない人との対面は避けたい、そのあまりに強い思いがちゃみちゃんに超能力じみたある才能を開花させた。

最初にその力の片鱗をみせたのは私と遊園地に行ったとき。あの時、陽キャ感のある人に対してちゃみちゃんは異常なほど敏感に反応し、器用に避けて行動していた。

そしてその力を本人が自覚したのは配信でやったホラゲプレイの時だった。私もアーカイブを見たのだが、リスナー間ではポンコツ絶叫プレイ確実と思われていた中、初見プレイとは思えない速度でサクサクと、敵にほぼ会うことなくゲームを進めていったのだ。

リスナーは勿論本人すら何が起こっているのか戸惑っていたのだが、やがて気が付いた。ちゃみちゃんは余りにも人見知りをこじらせた結果、感覚を極限まで研ぎ澄ますことで現実世界、そしてゲームの中ですら人間の位置を知覚することができるようになったのだと!

そして監禁人狼をプレイしているこの状況……もしかしてちゃみちゃんはその能力を使って、チームを組むどころか誰にも会わずにゲームを進めていたんじゃないのか?

可能性は十分にある、急いで以上の情報をみんなに簡潔に説明した。


「え、そんな悲しい能力あるかい? 聖様ちょっと泣きそうなんだけど」

「ちゃみちゃんかっけぇ!! 光もその能力欲しい!」

「光ちゃんは一番無理じゃないかな……」

「ええぇ!? なんでですかシオン先輩!?」

「ほら、陽と影は常に相容れない物だから……」

「お前ら人間じゃねぇであります!」


みんな思い思いの声をあげているなか、黙っていたましろんが突然笑い出した。


「ふふふふふっ」

「どうしたのましろん? おしっこ漏れた?」

「なんでそういう考えに至っちゃったのシュワちゃん? 雰囲気台無しなんだけど」

「だって事あるごとに私にズッコンバッコンするあのましろんが、ちゃみちゃんの驚愕の秘密が暴かれたのにツッコミしないから……」

「僕がツッコミを入れてないときはずっとおしっこ漏らしてると思ってたの? それ常にシュワちゃんが傍にいないと大変なことになってるよ僕」

「それって……プロポーズされたい感じ? ましろんのパンツは一生私が守るよって言ってほしいの?」

「そんなプロポーズされたら驚きで本当に漏らしかねないよ」

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ!」

「あとシオン先輩、露骨に鼻息荒くなるのやめてもらっていいですか? 漏らしませんから」

「ちぇ、あのお堅いましろちゃんが幼児退行してくれたと思ったのに」

「はいはい、そろそろ進めますよ。まず、光ちゃんとシュワちゃんにはナイスと言いたいね、おかげで推理が整ったよ。それじゃあちゃみちゃん、お話ししよっか?」

「ひぃ!?」


ましろんはそう言うと、ちゃみちゃんへの容赦のない問い詰めを開始した。

未だましろんへの人狼疑惑が晴れたわけではないが、今はみんなちゃみちゃんの動きが気になるため、その様子を黙って見守る。


「なんで頑なに黙ってたのかな? それにさっき言ってたステルスモードって?」

「……ほら! 私多人数だとなにも言えなくなっちゃうから! 話すタイミングとか被ったりすると気まずいし……」

「なるほど、じゃあ一対一で最初から聞こうかな。開幕はどう動いたの?」

「せ、セクター6に向かって、そこから上に向かったわ」

「誰か一緒にいた?」

「……誰も」

「なるほど、セクター6から上に向かったということは聖様とシオン先輩のいたセクター3に行ったわけだよね? 2人と合流しなかったの?」

「あっ……えっと、先輩方がセクター3のミニゲームを進めているわけだから、他のセクターに行った方がいいかと思ってセクター間の通路で迷っていたのよ!」

「1人で?」

「え、ええそうよ?」

「まずそこが怪しいな」

「な、なんでぇ!?」


狼狽える様子を明らかに隠し切れないちゃみちゃんと違って、ましろんは常に冷静に逃げ道を塞いでいく。


「このゲームで個人で行動するということは人狼に狙われる、または人狼を疑われるということに繋がる。もしプレイヤーでその状況なら一旦合流するのが普通じゃないかな? 少なくとも避けるのは怪しすぎる。人見知りとは言っても、このゲームは議論パート以外は喋る必要はないから、会うのすら避けるということは……姿すら見せられない理由でもあったのかな?」

「あ、甘いわよましろちゃん! 私の人見知りを甘く見ないことね! 会話がないとはいえ姿を見られるのすら恐ろしいものよ!」

「ふぅん……まぁいいや、それじゃあさっきまでは何してたの?」

「……セクター1の辺りに居たわ」

「そこに行くまでのルートは?」

「えっと……確かセクター8から5、4、1と移動したわ」

「へぇ……今回死体を見つけて通報したのは僕なんだよ。一緒に行動していたネコマ先輩と分断されて、急いで合流しようと思ったらその時には死体だった。 その死体があったのはセクター4だったはずなんだけど、そこを通ったのならなんで通報しなかったのかな? 停電はしばらくなかったと思うけど、死体見つけられなかった?」

「す、ストップなのですよ~!」


ちゃみちゃんがいよいよ人狼である疑惑が確証に変わるかといったところで、突如エーライちゃんが入り込み会話を中断した。


「ちゃみ先輩の言うことを全て信じるのはやめた方がいいのですよ~!」

「それはなぜ?」


突然の出来事だったが、それでもましろんの毅然とした態度は崩れない。


「ちゃみ先輩はポンコツだからですよ~!!」

「エーライちゃん!?」


後輩からのまさかの一言に、ちゃみちゃんの口からショックと驚きが混じった声がでる。

でも不思議とちゃみちゃん以外の参加者は驚かなかった。だってその通りだから……。


「なるほどエーライちゃん、流石鋭いね、確かにちゃみちゃんはポンコツだ」

「ましろちゃんまでポンコツって言うのね……」


ちゃみちゃんが段々いじけていくが、その裏で今度はましろんとエーライちゃんの話し合いが勃発する。


「そもそもですよ! ちゃみ先輩が人狼だとしても、こんなに長くばれずにいられるわけないと私は思うのですよ~! 絶対どこかでボロが出ているはずなのですよ!」

「うんうん、分かる、その考えはよく分かるよエーライちゃん」

「それなら」

「だとしたら、ちゃみちゃんがバレずに暗殺に集中できるように、最初から今に至るまで手厚くサポートしていた仲間がいるはずだよね?」

「………………」

「ね? エーライちゃん?」


これは……もしかしてエーライちゃん、おケツを掘ったか……?

間違えた、墓穴を掘ったか?

 

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