第158話聖様の謎2

「すまないシオン君、待たせたね……っておや? やぁ淡雪君、君も来ていたんだね」

「はい、偶然会ったので少しお話ししていました」

「そうかそうか、待ってくれているシオン君が退屈しないで済んだのならよかった、感謝するよ。何の話をしていたんだい?」

「サイ〇人のナッパの話です」

「なみ〇い戦闘モードの話か」

「いやいや、それ全くの赤の他人ですから!」

「あれ、ナ〇パって頭のてっぺんに生えてる一本の毛が抜けたなみ〇いが激怒した姿なんじゃないのかい?」

「似てるの頭だけでしょ、体格とか顔とか別の生物レベルですよ。あとなみ〇いは後頭部に毛が残ってます」

「でもあの髪が抜けたんだよ?」

「あの一本の髪にどんな可能性を感じているんですか?」

「なみ〇い『この土ならいいサイバ〇マンが育つぜ』」

「いや言わない言わない、盆栽感覚でサイバ〇マン育てるなみ〇いとか嫌ですよ」


うーん、こうして直接会って話してみてもそこまで変わった様子はない気がするなぁ。ネタを挟まなければ死んでしまうタイプの言動は普段通りだ。

でも少し、ほんの一瞬部屋から出てきたとき違和感があったような気がするかもしれない、けど何度もオフで会っているわけじゃないから自信もない……。


「いつもと比べてかなり長かったね、何か言われた?」


シオン先輩が不思議そうに話しかける。


「それはもう収益化関連のお話でたっぷりシコシコされましたよ」

「シゴかれたの間違いでしょ、どんな特殊プレイよ。というか怒られちゃったの?」

「怒られるというかね、逆に運営さんもどこが収益化剥奪に引っかかったのかとか問い合わせてくれたり、色々対策を練ってくれているみたいでね」

「ほんと!? よかったじゃん!」

「まぁ勿論ありがたいんだけど、大事になってしまったなぁと思ってね」


苦笑いを浮かべてそう話す聖様。


「でも収益化、早く戻ってこないとそれはそれで聖様も困らないですか?」

「勿論それはそうなんだけど、ほら、聖様って常にラインの上で反復横跳びしてるような人間だろう? 今更収益化が無くなったくらいでもっと軽い感じでネタにしてくれてもいいかなとも思うんだよ」

「とうとう自分で言い出しましたか……前話した時も少し聞きましたけど、聖様的にはこの件もみんなにいじってもらって笑ってくれればいい、みたいな感じなんですか?」

「そうそう、いつかは収益化だって戻ると思うしね。ただ、そうやってネタにしてもらうのも、皆のことを考えるとそう簡単な話でもないからね……」

「へ? なんでですか? 私本人がやっていいって言うんだったら、日ごろの鬱憤を晴らすべく喜んで徹底的にいじりつくしてやりますよ?」

「確かにそうだよね? シオンママだってママとしても友人としても聖様には言いたいことだらけなんだから、いい機会だよ!」

「君たち――本心でそう言ってくれているのかい?」

「?? 何か問題がありますか?」

「そもそも聖様はなにを壁に感じているの? それが分からないよ?」

「――――はははっ」


私たちの反応を見た聖様はらしくもなく本当に驚いた様子で目を大きくかっぴらくと、その後困ったような仕草と共に笑い出した。


「君たちは――本当に優しい子たちなんだね。でも、いつか分かるときが来ると思うよ」

「「??」」

「さて、久しぶりにオフでこの3人が集まったんだ、どこか遊びにでも行こう、前はカラオケだったから、今日はどうしようか?」


意味深なことを言った聖様は、それ以上を語ることはなく、普段の様子に戻って事務所の出口に向かい歩き始めてしまう。

首を傾げるもとりあえず付いていこうとした私だったが、隣でシオン先輩が「ぅぅぅ……」と謎のうめき声を上げていることに気づいて足を止めた。


「シオン先輩? どうしましたか?」

「気に食わない」

「へ?」

「何あの私だけは全て分かってますよーみたいな態度!? かっこつけるのもいい加減にしなさいって!」

「おおおぅ」


シオンママ、まさかの激おこであった。

その声は離れていく聖様の背中には届いていない程度の声量ではあったが、ここまで不満を表に出すシオン先輩は初めて見た。


「部屋から出てきたとき明らかに顔が沈んでたの分かってるんだからね!」

「あ、シオン先輩もそう思いました? 私も少し違和感を覚えたんですよね」

「2人ともそう思ったのなら確定だよ! でもあの調子じゃ何も教えてくれないだろうし……そもそもは収益化が剥奪されたから調子がおかしくなったわけだよね? 聖様の事情なんか知ったもんか、こうなったら早急にそこを潰して意地でも解決してやる!」

「し、シオン先輩?」


なんか物騒なこと言い始めたぞ!? 


「ん? どうしたんだい2人ともまだ事務所に用があったかい?」

「おい聖様!」

「ん? どうしたんだい、そんなに眉をひそめて?」


「今から! 事務所の部屋を借りて聖様の収益化奪還計画の為の会議を開きます!」


「「え!?」」


有無を言わさない形相で、突如シオン先輩はそう宣言したのだった――。

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