第154話光ちゃんとデート5

「お邪魔しまーす!」

「ぉ、おじゃましまーす」

「「いらっしゃいませー!」」



お店の扉を開けると、もう外見だけではなく声からキラキラした店員さんたちの視線が集中する。

そして、店員さんの中の一人が少し速足で私たちの傍まで寄ってきた。


「よー藍子あいこ! 来たよー!」

「いらっしゃい光、待ってたよ」


仲良さげに挨拶をする二人、この人が光ちゃんの親友の方なんだな。

お仕事をしながら遠目で眺めていた店員さんにも慣れた様子で挨拶をする光ちゃん、店員さんの微笑ましそうな様子を見るにどうやらかなり常連のようだ。

光ちゃんと軽い会話を終えた後、今度は私に向かい直る藍子さん。

ブティックの店員さんの為当然ではあるが、その姿は隙などなしと言わんばかりに完璧に着飾られている。


「淡雪さんですよね? お話は光から聞いていますよ、店員の藍子と申します。いつも光がお世話になっています」

「い、いえいえ! むしろこちらの方がいつもお世話になってばかりで……」

「本当ですか? 少し話せば分かったと思いますけどこの子おバカでしょう? 日々事務所の方々に迷惑をかけていないか私心配で心配で……」

「ム―! 光はバカじゃないぞ! バカって言う方がバカなんだぞ!」

「大丈夫、光はバカじゃなくておバカだから」

「それって同じじゃないかー!」

「全然違うよ、後者の方が可愛げがあるもの」

「そう? そっか! それならいいんだよ!」

「うんうん、そうだねー」


光ちゃんを軽くいなして微笑んでいる藍子さん、本当に仲がいいんだなぁ。

丁寧に対応してくれるし、すごくできる人って感じだ、クールでかっこいい!

一見タイプが違うように見える二人だけど、凸凹だからこそ噛み合っているものがあるのかもしれないな。

フハハハ! だがこの淡雪をなめてもらっては困る! 数々の経験を積んできた私にはライブオンに通ずるものにまともな人間が存在しないことくらい分かっている!

きっと真面目でかっこいい藍子さんも光ちゃんと通じている以上なにかヤベー要素があるはず!

ふっ、事前に来ると分かっていれば流石の私も驚かないよ。

さぁ来い藍子さん! 私がどんな特殊性癖でも受け止めてみせるよ!


「よっしゃ! それじゃあ淡雪ちゃんに合う服を探すぞー!」

「そうだね、淡雪さんスタイルがいいからなんでも似合いそうで楽しみです」

「そ、そんな……恐縮です……」


二人と共に店内の物色を開始する。

さぁ、まずはどう来る?


「これなんか最近トレンドですね。それを抜きにしても使いやすいデザインですから、おすすめですよ」

「なるほど……」


藍子さんが手に取ったのは特に変わった様子もない、涼し気でデザインも綺麗系なトップスだった。

まだ牙は隠すか、オーケーオーケー。


「どうです? こういうジャンルは好みですか?」

「えっと……そうかも? 嫌いではないですけど、初心者過ぎてちょっと着た姿が想像出来なくて」

「なるほど、それでしたら一度試着してみるのがおすすめですよ」

「あ、じゃあお願いします」

「はい。それじゃあこれに合う物もいくつか持っていきましょうか。全体像ですとか、組み合わせ方が分かりますから」

「ありがとうございます!」

「これと……あとこれかな。光! こっちで一回試着してみるから、そっちはそのまま探してて!」

「はーい!」


そのまま試着室に案内される。

よし、恐らく来るのならここだろう。試着室なんて絶好のシチュエーションだ。


「外で待機していますので、サイズが合わなかったり着方が分からなかったらおっしゃってくださいね」

「はい!」

「それでは失礼します」

「…………」


い、行ってしまった。

え、いいの? こんな絶好の機会を逃してもいいの? ライブオンたるものここでなにかやらかさないと勿体なくない?

ま、まぁ来ないんだったら仕方ない、普通に試着するとしよう。

私が脱いだ服がいつの間にか無くなっていて、試着室を開けたらなぜか藍子さんがその服を着ているケースも想定したが、服がなくなるどころか試着室のカーテンには一ミリも開く気配すらない。

これは一体どういうことだ?




その後、試着を終えて、思わず自分に結構いいじゃんと思ってしまったほど大満足な全身コーデが見つかったため、それ一式を購入することに決めた。

今日は奮発するって決めているからな、気前よくどんどんいこう。

だが本題はそこではない、とんでもないことが発覚してしまったのだ。

その後も色々な組み合わせを提案してくれた藍子さん、そのどれもがセンスを感じて、おかしな点など微塵も見えない。

これは――も、もしかして!?


「あとはこれとかも……あれ? どうしました? そんな驚いたみたいに目を見開いて?」

「常識人だ……」

「はい?」

「常識人……実在していたんだ……」

「……?? ありふれているからこそ常識人なんじゃないですか?」


間違いない……この人、紛れもない常識を持っている。

信じられない……間接的にとはいえライブオンに常識人が居るなんて……。


「すみません藍子さん、私固定観念に縛られていたみたいです。失礼を謝罪します」

「……淡雪さんが私になにを期待していたのかは分かりませんが、ご期待に沿えず申し訳ないです」

「いえいえ! むしろ感動したので写真撮っていいですか?」

「……いいですよ」

「あと握手とかしてもらって大丈夫ですか?」

「……どうぞ」

「やったー! 常識人の方と握手できるなんて私夢みたいです!」

「淡雪さん」

「はい?」

「光が色々とすみませんでした……」

「え、光!? なぜ!?」


ライブオンに思考まで侵食されている私なのだった。

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