第153話光ちゃんとデート4

「ねぇねぇ! どうだった光の勝負下着! 光の燃えるハートは伝わった?」

「しょ、勝負下着!?」


デ、デートで勝負下着を着けてくるってことはそういうことも考慮していると考えてもいいってこと!?

どうしよう、私そんなの持ってないからこんな安物で来ちゃったよ! いっそのことノーブラでくれば良かった!

いや待てよ? 光ちゃんは下着だけじゃなく全身コーディネートで来ている、ということは私は全裸で来るのが正解だったのではないか?

そうだそうだったんだ!! もし全裸に何か言ってくる奴がいれば言ってやればいいんだ、「これはエロい覚悟を決めた人にしか見えない服を着ているんだ!」と!

全裸こそ性交渉の正装なんだよ! 精巣の為の正装なんだよ! 礼節を持てよ! 今から性交渉するってやつは服なんか着てるんじゃねぇ! 礼儀正しく全裸でデートに行けや!

あれ? となると私と性交渉をする予定なのに今バッチリ服を着こんでいる光ちゃんはどうなるんだ? これって礼儀に反しているのではないか?

いや待て……この人としての常識が試されている議論の出発点は光ちゃんの勝負下着、つまり衣服からだ。何か私は間違っているのではないか?

考えろ私、礼節をわきまえた日本人になるために考えるんだ、勝負下着とはなぜ存在する? 普通の下着とは何が違う?

それは――己を魅力的に見せるためだ。つまり……顔にメイクを施すのと一緒……?


「ねぇ光ちゃん、ファッションってメイクと同類のもの?」

「ん? どしたの突然? まぁ自分を高めるって目的は同じなんじゃないかな?」

「なるほど!」


ようやく正解にたどり着いたわ、全裸は流石にダメだよね、常識的に考えて。

世のおしゃれ女子はこんな深いこと考えて自分を着飾っていたんだなぁ、尊敬だ。

全裸が正装なのかそうじゃないのかなんて私高校生の頃も含めて今まで考えたこともなかったもんなぁ、やっぱりおしゃれ女子は最先端なんだね!


「これが光の戦闘服だからね! どんな悪いやつも退治してやる!」

「ん?」


そう言って隣でシャドーボクシングを始める光ちゃん。

あれ? この感じ、なんかおかしくない?


「あの、光ちゃん、ちなみになんですけど、勝負下着っていつ使う物と思っていますか?」

「んー? それは勿論戦う時だよ! だって勝負下着だもん!」

「それは物理的な意味で? それとも肉体的な意味で?」

「?? それどっちも同じじゃない?」


だめだ、なんか会話がややこしくなってきたぞ。

そうだ! これならいけるかも!


「あれです、光ちゃんはなんで勝負下着って言われているか知っていますか?」

「んー? なんか友達が大切な日はお気に入りの勝負下着が大切って言ってたの聞いたから!」

「あー……なるほど」


これ漢字そのままの意味で勝負下着を解釈しているんだな……。

やっと会話のずれが理解できた、というかいかにも光ちゃんらしい理由だから気が付かなかった私がいけなかったな。

不意打ちでドキドキさせられたから動揺で正常な思考が働いていなかったようだ。

あれだ、もう不意打ち(光ちゃんは普通のことをしているつもりなのだろうが)を受け続けて平常心を保てないことは分かってしまったから、せめておかしな行動を起こさずにデートが無事終わるよう努力しよう……。


「さて、一軒目のお店にもうすぐ着くよ!」

「お、いよいよですか!」


光ちゃんの指さす方向に視線を向けるとそこにあったのは……これまたおしゃれなブティックですなぁ。

やばい、私場違い過ぎて店員さんから白い目を向けられたりしないだろうか? そこまで私に興味がある人は滅多にいないことが分かっていても被害妄想が止まらなくなってきた。


「ここね、光の友達が働いてるんだ! しかも数少ない私が今の活動をしていることも知ってる大親友の一人なんだよ!」

「え、そうなんですか!?」

「うん! なんでもジャンル揃ってるお店ってわけじゃないけど、淡雪ちゃんこういうお店詳しくないって言ってたからせめて最初は緊張しないように知り合いがいるお店選んだの!」

「光ちゃん……」

「ここで雰囲気に慣れたら二軒目以降も回って行こうね!」


なんて優しい子なのだろうか、そしてなぜそこまで人に優しくできる心を持っているのに自分には鬼畜の所業を課すのだろうか?

感動やら疑問やら色んな感情がごっちゃになったけど一言でまとめるとママになりたい。その純粋な心を一生守り抜いてあげたい。

そんなことを思いつつも当然口には出せないまま、光ちゃんに腕を引かれてお店の中に入ったのだった。

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