第151話光ちゃんとデート2

「まぁ細かく知りたいリスナーさんも多いよね、出会いからまったり振り返って行きましょう」

「光にはまったり生きている時間なんてないのさ!」

「了解しました、というわけで今日の配信はここまでですね、また淡雪が降るころに」

「あーあーごめんごめん! 謝るから振り返りいってみよう!」




当日、ファッション関連に詳しくない私の為に色々なお店を案内してくれるということで、駅前で待ち合わせしていたのだが、集合場所には私より先に光ちゃんの姿があった。相変わらずの煌びやかな陽キャのイメージそのままな容姿は遠目からでもはっきりと視認できる。

随分早いんだな。私も約束した時間の10分前には到着していたのだが……待たせてしまったかな?

少し歩く速度を速める。


「って気づくの早!?」


まだ私と光ちゃんとの間で結構な距離が開いていたのだが、光ちゃんは背景と同化してしまいそうなほど地味な恰好をしている私にも一瞬で気づき、そのまま大きく手を振りながら全力ダッシュしてきた。

……ちょっとだけ目立って恥ずかしい。これが陰と陽の違いなのだろうか? ちゃみちゃんほどではないが一般的には陰の方に分類される私だ、これからのデートを無事に過ごせるだろうか……。


「やっほー淡雪ちゃん(リスナーさんに振り返っているのでお互いライバー名呼び、実際の現場では本名で呼んでいる)! 待ってたよ!」

「こんにちは光ちゃん、あの距離からよく気が付きましたね」

「目は良いからね! あと大切な仲間の顔ははっきりと覚えているのさ!」

「流石ですね。しかも到着も早かったみたいで……もしかして結構待たせてしまった感じですか?」

「一時間くらいしか待ってないよ!」

「うん、多分これは私が悪いわけではないですよね、絶対光ちゃんが来るのが早すぎですよね!」

「楽しみだったから家になんていられないよ! お仕事の連絡とかしてたから大丈夫! あと遅刻しないためだね! 約束したことは絶対に裏切らない、それが光なのだよ!」


真面目なんだろうけどどこかずれている光ちゃんに開口一番から驚かされてしまう。

ゲームのやりこみ具合からも分かるけど光ちゃんは何事もやりすぎてしまう性格なんだな……今度からは誘い方に工夫を入れてなんとか対策を練ろう。

……友達相手に対策を練ることなんて普通ある? ま、まあいいや、あんまり気にしないことにしよう。


「多分遠足の前日とか寝られなかったタイプですよね光ちゃん、昨日は大丈夫でしたか?」

「2時間ぐっすり寝れたから万全の状態だよ!」

「いや短い!! めっちゃ寝不足じゃないですか!?」

「んーそうでもないよ? 昔から光1時間も寝れば十分なんだよね、ショートスリーパーってやつだと思う!」

「え、普段からってことですか? それは凄いですね……」


そう口では言いつつも正直なことを言うと少し心配だ。体に疲れが溜まったりしないのだろうか?

でもある程度の特異体質じゃないとあの苦行としか思えない縛りゲームプレイをクリアなんてできないのかな、エンターテイナー的視点で見ればこれも才能と言っていいのかもしれない。

目の前の光ちゃんも見るからに元気が溢れている感じだし、晴先輩みたいな理解の範疇を優に超える一種の天才型として見るのが正解なのかな?

心配し過ぎてしつこいと思われるのもあれなので、この件はそういうものだと思うことにするか。




「淡雪ちゃんと街を歩くのは初めてだねー!」

「そ、そうですねぇ」


合流場所で立ち話を続けるのもなんだったので、いざ街中を二人で歩き始めたわけだが――

近い! この子距離感が近すぎるよ!!

当たり前のように腕を組んでいるため常に体はくっついており、私の方が背が高いため会話のたびに斜め下超近距離から光ちゃんの顔が覗いてくる。

あぁぁ、今までの人生で一度も縁が無かったキャピキャピの陽キャ少女の顔がこんなに近距離に……初めての経験に脳が混乱を起こしているよ……。

しかも光ちゃんの服装は初夏らしくオフショルの露出度高めのファッションだから健康的な肌が際どく見えて……。

だめだ、あんまり意識すると熱中し過ぎて熱が出る方の熱中症になってしまいそうだ。


「んー? どしたん淡雪ちゃん、さっきから体が硬いよ?」

「いやーあはは、私たちまるで恋人みたいだなーって思って。大丈夫です、私熱かったりしませんか?」

「大丈夫! 今日は光が確実に淡雪ちゃんの買い物ミッションをコンプリートするからね! どんな外敵からも守り抜いてみせるから安心して!」


どうやらこれはエスコート兼ボディーガードになってくれようとした結果のようだ。

ここまでべったりだと逆に守りにくい気がするんだが……いやそれよりも。


「この日本で一般人にボディーガードが必要になる機会なんて滅多にないと思うんですが」

「そんなことないよ! 人間に化けている新種の生命体からの急襲があるかもしれないし、地下に巣くう人間よりずっと大きい巨大な昆虫が暴れ出すかもしれないし、空からは宇宙人が侵略にやってくるかもしれないでしょ!」

「あるわけないでしょそんなこと……」

「油断は禁物! 世の中には危険がいっぱいなんだから! でも心配しないで、今日は光がいるから淡雪ちゃんの体に指紋一つ残さない綺麗な体でお家に帰すからね!」

「あ、ありがとうございます……」


もう指紋なら光ちゃんのがべったり付いている気がするのだが、気にしたら負けなのだろう。

そんな話をしている間もぐんぐんと私の体を引き、女の子同士が腕を組んでいるのが気になったのであろう周囲の視線も物ともせずエスコートしてくれる光ちゃん。

あれ……もしかしてこの状況って地味な女の子がフレンドリーな陽キャ女の子とドギマギしながらデートするっていう尊さSSRのシチュエーションなのでは……?



【補足】

読む時にライバー名と本名で名前が混乱しないように試行錯誤した結果、このような書き方でチャレンジしてみることにしました。

尊い話が書きたい!

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