第87話晴先輩からのお誘い
「今日は折り入って雪さんにお願いがあって電話しました」
「え、お願いですか?」
ましろんが帰宅した翌日、今日はマネージャーの鈴木さんと打ち合わせがあり、いつものように配信の内容とかの話かと思っていたら開幕早々そんなことを言われた。
なんだろう、新企画のお誘いとかかな? でもお願いってニュアンスは初めてな気がするな。
「一期生の朝霧晴さんよりコラボの依頼が来てまして、それに参加して頂きたいんです」
「ま、マジですか!?」
と、とうとう来てしまったかこの時がッ!
ワルクラ配信の時意味深なこと言われてから内心ずっと心待ちにしていた晴先輩とコラボ……
何がお願いですか、むしろこっちからお願いしたいですよ。
ハレルン教論者である私なので、勿論快諾以外ありえないですぞwww
「是非参加させてください!」
「いや、そのですね、受けてくれるのは勿論ありがたいのですが、念のため企画の説明を聞いてからの方がよろしいかと……」
あ、あれ? なんだこの歯切れの悪い感じ、鈴木さんっぽくないぞ……?
確かにあの晴先輩のことだ、頭のねじが外れたんでそこにドライバーぶっ刺しときましたみたいな企画を持ってきている可能性は否定できない。
「えっと……何するんです?」
「詳細を説明しますね、情報解禁までご内密にお願いしたいのですが、実はライブ会場を借りての朝霧晴ソロライブが現在企画されています。演奏も生演奏でガチのライブです」
「え、会場を借りるって、実際に箱を借りてお客さんを呼ぶってことですか?」
「はい、現在ライブオンとして初めて試みですので、規模としては会場に約3000人+ネット配信を予定しています」
「3000人!?」
「はい。晴さんの人気を考えるとこれでも小さめかと」
「まじですか……」
3000人を音楽で一か所に集める……確かに私のいつもの配信でも膨大な人数が来てくれるけど、これが回線を通してではなく直接来てくれると考えると圧倒されるな。
「そんなわけで、雪さんにお願いなのですが」
「もう嫌な予感しかしません」
「晴さんがライブの大トリに雪さんとタッグでサプライズ新曲を歌いたいとおっしゃってます」
「ら〇ら〇るー☆」
「懐かしいですねそれ、誰でしたっけ? えっと、ど、どな、どなる……オワピでしたっけ?」
「やめてやれよ」
晴先輩確かに『すごいこと』とは言ってたけど、本当に予想外かつとんでもないものぶち込んできやがったな!
流石ライブオンの擬人化、期待はしっかり斜め上に打ち上げるその姿、天晴れなり、晴先輩だけに……ごめん。
「そ、そんな大役をどうして私に?」
「それは本人に聞かないとなんとも。ですが雪さんが出ないのならやらないとまで言ってますよ晴さん」
「え!? やらないってライブそのものをですか!?」
「はい、だから『お願い』なんですよ。まだ企画段階とはいえ正直ライブオンとしては更なる飛躍の為にライブを行いたいです。なので雪さんに力を貸してほしい訳です」
……分からん! 晴先輩が何を考えているのかさっぱり分からん! 後輩一人が出るか出ないかで自分がヒーローになれる舞台を可否できるの……?
「混乱するのは分かります。でもライブオン側もびっくりしてるんですよ、『あの晴さんが出てくれる』なんて」
「え? どういうことです?」
「晴さんって意地でも自分が主役の企画をやりたがらないんですよ。今までに何回も断られていて……」
「そ、そうなんですか!? うそ!?」
そんなことあるわけがと思い過去の晴先輩が出ているコラボ企画を思い返す。
――本当だ。二期生が入ってから今日に至るまで一回も『自分の為の企画』が存在しない。
あまりの存在感から気づかなかった……私が知らないのだからネット上でも気づいている人は少ないはずだ。
「でもなぜ……」
「晴さんは自分が『ライバーである』と同時に『ライブオンの社員である』ことも同等に大切に思ってるんですよ。簡単に言うと縁の下からライブオンを支えたいという思いが強いんです。兼業は忙しいからライバーに専念しないかと何回も声を掛けられてるんですけど聞く耳持たずで」
「なんだかすごく意外です。常に第一線を突っ走ってる感じだと思ってました」
「例えば後輩の為とかならどんな企画でも本気の本気で生き生きしてますよ。でも自分が主役となると嫌がるんです。根底の理由は本人のみぞ知るですけどね」
「不思議ですね、ライバー活動が嫌なわけではないんですか?」
「それは違うみたいですよ。「私がVTuber界を盛り上げるんだ!」って常日頃から言ってますし」
「うーん……」
本当に掴みどころが無い人だ、自由奔放のようにも見えるけど確かな意思も感じる。
「今回の企画も飲み会で冗談半分に出てくれませんかって聞いたら「シュワッチが最後に出るんならいいよ☀」って言われて奇跡が起こったと思いましたよ」
「なるほど、事の顛末は大体分かりました」
「理解が早くて助かります。それで、是非の程は……」
「喜んで受理しますよ」
「ほ、本当ですか!? ありがとうございます!」
驚いたのは事実だが、何よりあの晴先輩からのお誘いだぞ? 断るなんて我が人生にとってあまりに大きな損失!
しかも緊張はするがこの規模のライブなんて余りに貴重なチャンスだ、成功すれば一生の思い出になるだろう。
晴先輩に成長した私の姿を見せてやんよ!
「それでは随時連絡しますので、その都度よろしくお願い致します」
「楽しみに待ってます!」
これからしばらく退屈の心配は必要なさそうだ。
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