第6話ソロ配信2

ライバルの同業者がしのぎを削る中、今では超大手として日本のVTuber運営のトップを走っているライブオンという企業。

だがどんなに強大な生物でも生まれたときは弱く小さい赤子。

ライブオンも最初はたった一人の女性ライバーから始まった。

しかも彼女はあくまでもうまくアバターが動作するかのテストという目的で生まれ、担当した中の人もまだ小規模の企業だったライブオンの少ない社員から選ばれた。

言ってしまえば試作品。なので当たり前だがお世辞にも出来がいいとは言えないセーラー服姿に黒髪ショートの特徴のないキャラデザインと、ところどころで粗が見える不自然な動作で、彼女はネットの海に一人で放たれた。

ビジュアル面だけで見れば明らかに人気の出る要素はゼロ。初の配信の時は、最初10人の同時接続者すらいなかったらしい。

だが赤子とはいえ能力がない訳ではない。天賦の才を持つ彼女は生まれながらにして周囲を圧倒して見せた。


歌配信では、一度聴いたら忘れる人などいないであろう聞く者の心揺さぶる力溢れる歌声で――

雑談配信では、一体どんな人生を歩んできたらそんな膨大な知識や奇抜な発想が思い浮かぶのかと聞きたくなるような鬼才を発揮し――

ゲーム配信では天が味方しているとしか思えないクソ雑魚運を存分に発揮して視聴者を爆笑の渦に飲み込んだ――


今ライブオンに所属しているライバーは、全員少なからず彼女の影響を受けているといっても全く過言ではないだろう。

期待された存在ではなかったにも関わらず、ライブオンだけでなくVTuber業界全体に激震を与え、企業ライブオンの成長の架け橋となった少女。


それがライブオン唯一の一期生であり、未だにライブオン所属ライバーの中でチャンネル登録者数トップ『朝霧あさぎりはれる』だ。


そして彼女が広めたライブオンの人気を決定的にしたのが、全員がそれぞれ個性の塊とも呼んでいい3人の選ばれし二期生たちだ。


まず一人目は深紅の腰まである真っすぐな髪に180を超える圧倒的長身のすらっとした体。

まるでスーパーモデルのような精巧なビジュアルから一体どんな性格なのだろうと期待を大いに膨らませた視聴者たちを、初配信から元レズもの専門のsexy女優であることを暴露からの好きなsexy女優とおすすめレズAVを語りだしドン引きさせた『宇月うつきせい』先輩。

その豪胆さとはっちゃけ具合に当時VTuberにドップリつかっていた私も大爆笑したのを覚えている。


二人目は茶トラ模様の猫耳と尻尾が生えているかなり小柄な茶髪獣っ娘、という可愛さ全振りのビジュアルだが、異様にクソゲーとクソ映画を好むネットでの通称が《汚物ジャンキー》の『昼寝ひるねネコマ』先輩。

ネコマ先輩はなぜか国内国外問わず素晴らしい作品が溢れているゲームと映画の業界において、人類史の汚点とも呼べるような酷い出来のものを好み、面白おかしく解説する配信をよく行っている。

勿論ゲームプレイも行っており、《絶対に笑ってはいけない四〇(仮)を全力で感情込めて朗読プレイ》は私もお腹が捩れるほど笑ったのを覚えている。


そして二期生最後は癖の強すぎる他の三人をたった一人でまとめ上げる逸材、『神成かみなりシオン』先輩。

シオン先輩の個性は人の感情が見えているんじゃないかと思ってしまうほどの洞察力だろう。

常に視聴者の期待に応えるどころか一歩超える対応を見せ、圧倒的な安定感と面白さを持つ配信は最早名人芸だ。

特にコラボでは司会などの進行役で存分にその存在感を発揮し、集まると大抵どうしようもないカオス空間が出来あがるライブオンメンバーもシオン先輩がいればそれだけで安心だ。

巫女という設定があり、ビジュアル面も神秘的な巫女服にどこか儚げの垂れた目元、肩にかかる長さでスパッと切られた黒髪、極端さのない自然な体型などから癒しオーラ満点である。

最近では《ライブオン界のママ》とも呼ばれ始め、本人もかなり乗り気で武器にしている。強力な武器も手に入れてもう手の付けようがない存在だ。


さて、長々と説明してきたわけだが、まぁ言いたいのは全員私にとっては神に等しい存在だってこと。

それでまぁ……


コメント欄

<宇月聖>:同族の気配を感じ取ったので参上したよ!

<神成シオン>:やっぱり貴方もライブオンだったんですね……


この神様のうち御二方がコメント欄に降臨なさってるんですねぇ!!!


実は前に何度か後輩思いの先輩がコメント欄に来てくださることはあった。

だがそのたびに極度の緊張状態に陥り、たじたじな会話しかできなくなって配信をグダグダにしてしまっていた。

なにを喋っていたのかまでは覚えていたので、恐らくだけどあの緊張状態から更に臨界突破すると、三期生募集の面接のときの様な私になってしまうと思う。

それが今回は同時に二人登場、こんなの初めてのことだ。普段の私だったら臨界突破間違いなしだっただろう。

まぁ……


「聖先輩、シオン先輩。ずっとずっと大好きでした。S〇Xを前提に結婚してください」


今の私は臨界どころか天元突破してるんですけどねー!!!

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