第4話吹っ切れた

「どうしてこうなった」


配信に来たトップVTuberと名乗っても全く問題ないレベルの配信待ち視聴者数を見て思わず呟く。

もう何回同じこの言葉をリピートしたか分からない。



◇少し時を遡る◇


例の配信切り忘れ事件の後、私は鈴木さんに謝罪の電話をいれた。

PCの不調がきっかけとはいえ世間に晒した醜態は完全に私の責任だ。

活動休止と言われても納得したし、むしろその期間で自らの内面のおっさんの如き悲惨さを正す覚悟や、もはや私の中で生きる過程において血液や水と同じ領域にまで来ていたストゼロを断つ覚悟すらしていた。

なのだが……


「あ、確かに切り忘れは今後二度と無いようにしてもらいたいですけど、飲酒は全然大丈夫ですよ」

「は?」


待っていたのは予想とは正反対の答えだった。


「え、なんでそんな平気そうにしてるんです? 私なにしたか知ってますよね!? キャラ崩壊とかのレベルじゃない大事故ですよ!? ガンジーが血湧き肉躍るストリートファイトの王者になってたみたいなものだったじゃないですか!!」

「いえ、雪さんのことなのであの程度のこと社内全体で想定済みでしたし……」

「はぁ?」


なに言ってるんだこの会社? 確かにライブオンのライバーは全体的にはっちゃけた性格の人が多いと呼ばれ、よくヤベェ奴の溜まり場や闇鍋とも呼ばれてるライブオンだが、あの大事件をあの程度呼ばわりですと?


「というか三期生募集の面接の時の雪さんはあんなものじゃなかったですよ? 覚えてないんですか?」

「はい!? どういうことです!? 私面接でなにやらかしたんですか!?」

「え、本当に覚えてないんですか? 私あの時のインパクトが強すぎて現在ですらまともな雪さんに違和感を覚えるのですが……」


デビューから3ヶ月ほど経ってるのに!?


「というか、後のギャップを狙って清楚を演じてたんじゃなかったんですか? 私完全にそう思ってました」

「違うわ!!!」

「でも私の中では雪さんは範○勇次郎、江○島平八と並ぶはちゃめちゃな人なんです」

「ええぇ…………」


緊張からなにをしたのか全く記憶になかったが、大事な場面でなにをやってるんだ私……!!

でも同時にずっと謎だったなぜ私が面接に受かったのかも分かったぞ。



ライブオンのやつ私のこと超ド級の危険物だと感じて面白そうだから採用しやがったな!!!



「いや、よくもまぁそんな見えている地雷を採用しようと思いましたね……」

「いや、かなりこちら側も悩んだんですよ? ですがライブオンは《輝ける人》がライバーの採用基準です。それを雪さんにも感じました」

「今の私輝きどころか淀みきった泥水だと思うんですが」

「いえ、輝いてますよ。今心音淡雪というキャラクターは注目の的です。確かにインパクトがありすぎたため批判的コメントも少々見られますが、炎上というレベルではありません」


確かにそれは私も意外に思っていたことだ。

実はあの後恐る恐るエゴサをしてみたのだが、いじるような発言は山ほどあったが中傷ととれるような発言は意外に少なかった。むしろ多いのは面白半分かもしれないが次の配信を望む声だ。


「それが意味するのは、例えどんな面であったとしても多くの人が雪さんに注目し、興味を持ち、魅力を感じているということです」

「そう……なんですかね?」

「そうでなければ次の配信なんて待ち望みませんよ。今度から雪さんの配信は私が全て見るようにするので、本当にまずいと思ったときは私が止めます。なので一回殻を割ってみませんか?」

「殻を割って……」

「きっと悪い結果にはなりませんよ。というよりもう戻れないところまで来てるんじゃないですか? 次からまた清楚配信に戻ったら違和感天元突破ですよ」

「ぐッ!」


痛いところをついてくる……

結局それっきり鈴木さんは仕事に戻るとのことで電話は終わってしまった。


「わっ!?」


電話が切れてから一分も経たないうちにまた次の通話の着信音が鳴り出した。

かけてきたのは……光ちゃんだった。

うっわぁ気まずいぃぃぃ。

でも出ないわけにいかないよね……

よし、覚悟を決めよう


「も、もしもし?」

「あ! 淡雪ちゃんおはよ! そしておめでとー!! めっちゃバズってるね! 世界一だよ世界一! 普段の淡雪ちゃんってあんな楽しい人なんだね! なんか飾らない感じでこっちまで楽しくなっちゃった!」

「あ、あはは……」


普段と変わらない声色で元気いっぱいに祝福してくれる光ちゃん。

これは新手の煽りではなく本当に心からの祝福だろう。デビュー当初からの付き合いだから分かる。

光ちゃんは本当に配信外でも配信中とほとんど変わらない。常に明るく前向きだ。

あれ? これもう裏表だったら誰にも負けない私の対義語じゃね?


「あ、あとね、一つ気になったことがあったの!」

「え、なにかな?」

「さっき気になって切り抜きされてた動画を見たんだけどね」

「うんうん」


当たり前のように切り抜かれてて草。


「光の配信見てくれてるときに淡雪ちゃんがいってた『どちゃしこ』って言葉が気になってマネージャーさんに聞いてみたの!」

「え゛」

「そしたらマネージャーさんが、光のことを最高に魅力的ですねって言ってるんだよって教えてくれたんだよ!!」


おい光ちゃんのマネージャーなにしてやがるうううぅぅ!?

絶対悪乗り入ってるだろ! 絶対教えてるときニヤニヤしてただろ!


「もう! 照れるなーふへへぇ! またコラボしようね、バイバーイ!!」


最後に嵐のように私の心を乱して去っていく光ちゃん。

あぁ、当たり前のことだが、もう同じライバーにも私の本性が知れ渡っているという事実にがっくり。

その後もちゃみちゃんを始めとした同じライブオンのライバーから同期先輩問わずチャットや通話が届き、皆に共通して言われるのは素の姿を見れて面白かったや嬉しかったという感想。

今考えてみると、私は今まで素の自分を隠すことでどこか皆から距離を置いていたのかもしれない。

あぁ、なんか色々考えてるともうこのまま自由に生きてもいい気がしてきた。



◇そんなこんなで時は戻り◇


「行くか……」


プシュ!(プルタブを開ける音)

なんかもう考えてもよく分からないんで吹っ切れることにしました!

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