第2話切り忘れ 後編

「ぷはぁー!!!」


配信をしていたデスク前に戻り、きんっきんに冷えたストゼロを体に流し込む。

あぁ、なんかもうおいしいのかどうかも分からなくなってきたけどこれがないと一日を終わらすことができないところまできてしまった……

もともとそこまでお酒に強くないのもあってすぐに酔いが回ってくる。

安いうえにすぐ酔えるなんてストゼロは最高やで!

あー、いいね、なんか気分良くなってきた。

この内なるパワーが解放されていく感じ、たまらない。


「まじたまらないわ。この一本の為なら地下帝国建設の為に法外な賃金で働かされてもいい。カ〇ジくんはビール飲んでたけどストゼロはないんかな?」


IQ3レベルの独り言を言い始めた私に、最早普段お嬢様口調でしゃべる淡雪の面影はどこにもない。

そのままノンストップで飲み続け、あっという間になくなる350ml缶。

だがこの程度では満足できない体になってしまっているのが私だ。

手をかけるは冷蔵庫から一緒に持ってきていたもう一缶。

しかも……


「うひゃー! やっぱロング缶のなる音は最高だぜぇ!!」


そう、酒に飢えたものが手を出す悪魔的発想、ロング缶だ。

またごくごくと派手に喉を鳴らす雪。悲しいけどこの女、普段お嬢様口調で話す清楚系VTuberなのよね。


「よっしゃ! 同期の配信みるどー!」


ほどなくしていい気分になったので、同期のライバー『祭屋まつりやひかり』ちゃんの今日の配信がアーカイブで残っていたので見始める。

光ちゃんは実際会ったことはまだないが、こんな配信でうまく目立つことのできない私にもデビュー当初から優しくしてくれるマジいい子、天使、しゅき。

かなり小柄だが胸が大きく明るい茶髪に活力溢れる明るい顔のアバターの16才。そして何より見た目とマッチした明るさ爆発の配信内容。

コメントもよく拾い、けなげにVTuber活動に取り組む姿が好評を得て、今では三期生の中心的存在になった。

何回かコラボしたこともあるのだが、もう何というか、純粋無垢を体現したような子でマジで母親になりそうになる(真顔)。


「わたしがママになるんだよ!」


これも癖なんだがどうも私は酔うと独り言が多くなるらしい。というか頭に思い浮かんだ言葉が脳内のすべてのフィルターを無視して口から出る。

元々人見知りだから誰かとお酒を飲むなんて滅多にない為、問題になったことはないとはいえ危険だ。

まぁそれでもストゼロやめられないんだけど! でもストゼロやめられないんだけどまじで!


「ぎゃははははははは!!!!!」


配信を見ながら品のかけらもない爆笑を続ける私。

配信内容はゲーム実況で、プレイしているゲームはフォークに刺さったソーセージとソーセージがぶつかり合いながら対戦するという最早製作者の狂気を感じるゲームだ。

というかゲーム内容がゲーム内容なのでプレイヤー名に下ネタが多い。


「卍ル武社亜は草ですわwwwwwwwwもうソーセージ関係ないやんwwwwwww」


完全に頭がハイになっている今の私にはどんな低俗なネタであっても面白いものは面白い。

あぁ、しかもこの配信のやばいところは配信者の光ちゃんがそういう下いネタの知識に乏しすぎて明らかに分かるネタ以外はそのまま口に出して読んでしまうことが多いところだ。

完全に紳士ホイホイ。


「は? どちゃしこなんだが? 光ちゃんのママ貴方の配信見てどちゃしこなんだが?」


そんなこんなでずっと爆笑続きで光ちゃんの配信が終わった。やっぱ光ちゃんの配信を~…最高やな!

すごいなぁやっぱ光ちゃん。人気が出るのも分かる、出ない理由がない。

それに比べて私は……


「……時間も時間だしちゃみちゃんの配信でも見て寝よ」


午前2時を回って現実を痛感して悲しくなったので、もう一人の同期ライバー『柳瀬やながせちゃみ』のアーカイブを見る。

ちゃみちゃんは他のライバーさんと少し方向性が違って、普段は様々なasmr配信をメインにしている。

非常にわがままなボデーの金髪ショート碧眼お姉さんがするasmrはいいぞ。

気持ち低めの作っている感が薄い声がものすごく眠気を掻き立てる為、睡眠用としては右に出るライバーはいないだろう。

今日は耳かき配信のようだ。酔いもあって爆睡間違いなしだろう。


「ああやば、この配信の中毒性はストゼロといい勝負やで」


すぐに激しい睡魔がやってきて、私はあっという間に熟睡してしまう。


「ぐぅ…………………………」


けたたましく鳴り続けるスマホには一切気が付かないまま…………

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