第16話 最後の灯火

十六最後の灯火



真っ暗な視界。瞼を開くと、白塗り部屋の中にいた。ハーツが涙目で俺を見ている。


「あっ、やっと起きたよ〜。シュウ、オイラが分かる?」


「分かるよ。てかこの部屋何?」


「ここは治療室だよ。それよりも、シュウが気絶してる間にゼクサスは準決勝までいってるよ。もちろんシュウの仇はとったよ」


どうやらゼクサスがイケメン野郎を倒してくれたみたいだな。俺が倒したら絶対にかっこよかったのに。


「それで、準決勝はあとどのくらいで始まるんだ? 」


「多分だけど今から」


・・・・・・・・・まじ?

俺とハーツは急いで席に向かい、ゼクサスの試合を見る。

席に座ると、ヒナとローズが怪我の心配をしてくれた。女の子に心配された事がないので感激していると、闘技場から声が響く。



「貴方様はゼクサス様ですね? 私はシルクと申します。二年前にゼクサス様の事を拝見しております。とても綺麗な太刀筋でした。」


「そうだ、俺がゼクサスだ! そういうお前は《漆黒の刃》シルクだろ」


「その通りでございます。《憤怒の灯火》ゼクサス様とこうしてお手合わせ出来ること、光栄でございます」


準決勝からは、選手同士の会話が観客に聞こえるようになっているようだ。


それよりも、何だこのやり取りは? 《憤怒の灯火》ってなんだよ。

俺が疑問に思っているとヒナが口を開いた。


「二年前におきた大事件で、この大陸が氷で覆われた。その日、多くの剣士やギルドが多くの人々を氷から守っていたの。だけど、王都から離れた田舎には優れた剣士、ギルドがいなくてね、そこに住む人々はただ死を待つだけだった。そんな時、一部の地域で、たった一人の男が迫りくる大きな氷の波に立ち向かった。その男の人は、氷から逃げる途中で両親を亡くした。」


話の途中で準決勝が始まった。

試合開始の合図とほぼ同時に二人の姿がブレた。

ヒナは試合から目を離さずに話を続ける。


「その男は片手にイシェルヒードと呼ばれる魔剣を持っていた。イシェルヒードは、持ち主の家族を失った怒りに反応し、憤怒の炎を強く燃やす。その炎は黒い炎だった。そして男はたった一人で二千三百人の命を救った。救われた人々は、あの男こそ最後の炎、灯火だと謳い、《憤怒の灯火》と異名をつけた。その男は今も、家族を失った時の炎、憤怒の灯火を燃やし続けているの」


「ゼクサスがその男なのか?」


「ん」


ヒナは静かに答えてくれた。

闘技場のあちこちで木刀同士がぶつかり、衝撃波を放つ。二人が木刀を振るたびに感性が湧く。


「さすがですね。ゼクサス様」


「様付けはやめてほしいな!」


「そうですか、ではゼクサスさんと呼びましょう。なぜにゼクサスさんは剣聖会に出場なさるのですか? ゼクサスさんは既に、別の地方の剣聖会で一度勝利を掴んでいるはずですが」


「俺にも分かんねぇ! 仲間が剣聖会で剣を振るうなら、俺も一緒に仲間と剣を振るいたかった! それに、一番の理由は、好きな人を守るのためにはな、強さだけじゃなく、かっこよさも必要だからだ!」


「なるほど、そういう理由でしたか。」


シルクは、ゼクサスとの距離をとる。


「いい提案があります。お互い本気の一撃で決着をつけるのはどうでしょうか?」


「そいつは楽しみだ! 頼むぜイシェルヒード、俺に力をかしてくれ。」


「魔剣を抜けないと本気とは言えませんが、ゼクサスさんのお力、楽しみにございます」


二人が睨み合うと会場は静まり返った。ただならぬものを俺にも感じる。空気が重たい。

ゼクサスが空に小石を投げる。その小石が二人の間に落ちた瞬間、


「はぁぁぁぁぁぁ!! 」


「せやぁぁぁぁぁ!!」


シルクは漆黒に包まれ、凄まじい速度でゼクサスに迫る。

ゼクサスは真っ赤な炎に包まれ、地面をえぐりながらシルクに迫る。

二人が衝突しあった途端、大きな衝撃波がうまれ、会場全体が砂埃と爆風に覆われる。


「ケホッケホッ。どっちが勝ったの? 」


ヒナの質問に誰も答えられない。


砂埃が徐々にはれると、そこに立っていたのは、


「しょ、勝者はっ、シルクーーーー! 」


勝者のコールが歓声を呼ぶ。


「ゼクサスさん、いい勝負でした」


「何言ってんだシルク、お前の圧勝だったよ」


「そんな、ゼクサスさんが魔剣を抜いていたら結果は変わっていたかもしれませんよ」


「シルク、ありがとう。いい試合だった!」


倒れていたゼクサスに、シルクは手を差しだす。ゼクサスはその手をとり、互いに称えあっていた。

その後、シルクは決勝でも勝ち、見事優勝した。

試合が終わり、俺達が宿に帰ろうとした時、


「ゼクサスさん、今日はありがとうございました」


シルクが後ろから声をかけてきた。そして、握手を求めるように手を差しだす。


「俺の方こそ感謝したいぜ! ありがとう! 」


シルクは、俺達が見えなくなるまで手を振っていた。

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