ファンは英雄

@toipptakosan11

ファンは英雄

遠くで微かに轟音のようなものが聞こえた。

何事かと思った時、先ほどよりも近いところでそれが起こったことがわかった。

私たちは、スタジオを出てガラス張りの廊下に向かって走った。

何が起こっているのかを確かめたかった。

悲惨だった。

空から隕石が降ってきてたのだ。それもたくさん。

みんな動揺を隠せなかった。パニックになって泣き出す子もいた。

私は、ただ唖然とその光景を見ていた。


急いでスタッフさんたち付いて行き、いつもスタジオまで送り迎えをする送迎車に乗った。

みんな怯えている。

怖くて抱き合っている子達もいる。

私も怖かった。こう言う時こそ、最後に家族に会いたいと強く思った。

大好きだった家族に。。。


送迎車が止まった。どうやら渋滞らしい。前に走っていたスタッフさんが私たちの方へ走ってくる。

「この先ずっと渋滞だ。ここに居たら危ない。近くの地下鉄に行く。」

私たちは3年間お世話になった送迎車を置いて地下鉄に向かった。

地下鉄にも避難してきた人たちがたくさんいた。

みんな怯えている。子供達の泣く声が聞こえる。どうやら親とはぐれた子はいない。みんな親と一緒にいる。それだけでも本当に良かった思った。

ただ、私も家族と一緒にいたい。

きっとメンバーみんなも思っている。

でも、メンバーも家族だ。一人じゃなくて良かったと少し安心した。

その時、近くで今までにない轟音がなった。

この近くにも隕石が落ちたらしい。

あー、きっと私はここで死ぬんだろうな。

その瞬間、急に恐怖と悲しみが込み上げてきた。苦しい。死にたくない。

誰でもいい。誰かの温もりが欲しい。

そう思った時、誰かが私を包んでくれた。

包んでくれた相手は、このアイドルに所属してからずっと仲の良かったサヤカだ。

「サク。大好きだよ、大好きだよ。」

彼女は私を抱きしめながらそれを言い続けていた。

すると後ろからも優しく包まれた。レイだ。

それからみんなが私を抱きしめてくれた。

家族と一緒にいたい。会いたい。みんなもきっと同じだろう。

だけどみんなも家族なんだ。アイドルになるために16歳で上京した私にできたかけがえのない家族なんだ。

みんなが大好きで。みんなと出会えて本当によかった。

ありがとう。


どこかは続く暗闇から轟音と何かが崩落した音が聞こえた。

「ここと繋がっているどこかの地下鉄が崩落したんだろう。ここも時間次第じゃな。南無阿弥陀、南無阿弥陀」

近くにいたおじさんがそう言った。

そして今、たぶんその時が来た。

今まで一番強い轟音が鳴った。

天井が崩れはじめた。

「すぐに外に出るぞ」スタッフさんたちは私たちにそう言った。

スタッフさんたちも最後まで私たちを導いてくれた。本当にありがとう。

私たちは出口へ走った。

地下鉄を出るとすでに私が知っていた街は消えていた。道路には瓦礫が散らばり、目の前のビルは今にも倒れそうだ。


強い光が私たちを覆った。

私は悟った。

死ぬ。

そして私はみんなをぎゅっと抱きしめて

小さくありがとうと言った。



何も起こらない。

痛みを感じることなく死んじゃったのかな。

でも、強い光はまだ私たちを覆っている。

ぎゅっと抱きしめ合っていたみんなの手が解けるのがわかった。

「ねえ、サク。」

隣にいたサヤカが私の肩を叩く。

怖かったけど、私はそっと目を開けた。


目にした光景に言葉を失った。

というかみんなも唖然としているだろう。

隕石が私たちの頭上で止まっている。

違う。誰かが止めている。

次の瞬間、隕石は音もなく消えた。


訳がわからない。


隕石を止めていた誰かがこちらを向いて降りてきた。

「宇宙人」

誰かが言った。けれどそれは間違いだったとすぐに気づく。

距離が近くなって分かった。彼は普通の男の人だったのだ。歳もそんなに差はないと思う。

隕石と隕石が消えたことと隕石を消したこの男の人。私含めみんなの頭はパニック状態だったに違いない。


「えー!4期生じゃん!」

その言葉で私は我に帰った。

「良いことすると良いことが起こるねー。ははは。

いやー、それにしても本当にいるんだね!会えて感動だよ!こんな状況だけどね!」

彼は私たちを見て感動しているようだ。このあとも

ずっと同じことを言っている。

彼曰く、私たちのファンらしい。


「ど、どうやって消したんですか?」

こういう時もレイはレイだ。いつもよりは元気はなかったけど、みんなが聞きたいことをレイが男の人に聞いた。


「レイちゃんじゃん!いつも君の笑顔にどれだけ救われていることか」

レイの質問に答える前に彼は言った。でも、彼はすぐにレイの質問の答えをくれた。

「あー、わかんないんだよね。とりあえず、そうなれ!と思ったらそうなるらしい」

男の人も自分がしていることを理解できていないらしい。

「この大惨事じゃん?俺も死ぬと思ってて、何か能力ないかなって。それで隕石落ちるのとーまれ!って願ったら本当に止まるからびっくりだよ!」

男の人は終始笑顔で話している。

「それから君たちに会いたいなーって思ったら.

避難しているところがなぜかわかったんだよね。

それで飛んできたところ隕石が落ちそうだったから止めたんだー。」

みんな唖然だ。けれどみんなが思った。

この人は世界を救えるかもしれない!

レイはすぐにみんなが思ったことを言った。

「世界を救えますか?」

彼もすぐにそれを答えた。

「それもそうだね!」

彼は笑顔でそう言った。

そして

「世界よ!もとの世界にもーどれ!」



「サク!サク!」

サヤカの声が聞こえた。私はすぐに目を覚ました。

周りを見ると地下鉄にいたみんなも今起きたらしい。

そして街は隕石が落ちる前の街に変わっていた。

「あの人は」

私はすぐにあの男の人のことを思い出し、サヤカに聞いた。

「サクも見たの!?」サヤカは驚いていた。

夢だと思っていたらしい。

だけどみんな分かっていた。絶対に夢ではないことを。

スタッフさんたちが

「とりあえずスタジオに戻ろう」

そう言った。



次の日

ニュースや新聞、SNSは全て昨日の出来事で持ちきりだった。

世界中が昨日起きたことを経験していたのだ。

その中には隕石でもに潰されて死んだ人、

死んでから三途の川を渡った人。

死んだおじいちゃんに会ったこと。

たくさん奇妙な話が出回った。

けれど、あの男の人については話題になっていなかった。

でも、メンバーやスタッフさんたちは男の人を覚えていた。


それから2週間後

世界中で起きた隕石事故は「集団夢」と呼ばれ、

原因については各国の頭の良い研究者たちが解明に挑んでいるらしい。

そして、一番に驚いたのは

あの男の人から事務所に手紙が来ていた。

そして今日、あの時、

地下鉄に避難していたスタッフさんたちと私たちは事務所の一室に集まり、スタッフの代表の方がそれを読み上げてくれた。


乃木坂46 4期生とそのスタッフの方々へ


拝啓というのはよくわからないので、割愛しますね。いやー、あれから僕も意識が飛んじゃってね。気付いたら家にいました(笑)。あの思いついたらなんでもできる力も消えてました。正直残念です。

まあ、何はともあれ世界が元に戻ったそうなので、それでよしとしましょう!そう考えると僕は英雄だったのかもしれない?!(笑) 調子に乗りたいけど、乗らないことにします。言いたいことはたくさんあるけど、この手紙に全てを書くのは流石に無理なのでみなさんに一番伝えたいことを伝えて終わろうと思います。

いつも元気をありがとう!みんなの活躍が僕の元気の源だよ。だから、僕からすればみんなが僕の英雄さ!だからこれからも応援してるね!笑っているみんなが大好きです!ははは。


隕石を止めた人より


みんな笑っていた。

あの時もだけど、男の人はちょっと変な人っぽい。

けれど、私たちの英雄であることが確かである。

そして、いつも通りの毎日に戻ったけれど、前とは違う。だって私たちは誰かに元気を届けているんだ。そんな仕事をしているんだ。今日もどこかの誰かに元気を届けられるように頑張る。いつかまたあの男の人に出会えるように。







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