6.Epilogue

 事件から数日後。

 私はムッシュとテーブルをはさみ、エスプレッソをすすっていた。

「それはそうと僕は今朝ね、とてもこわい夢を見たんだ」

 ムッシュはそう言った。

「こわい夢? それはまたどんな夢だい?」

 私は特に興味はなかったが、受動的にそう返事をした。

「いやね。僕はいつものようにこの屋敷で、今まさにそうしているように、君と喋っていたんだ。会話の内容までは覚えていないけれど、取り留めの無いものだったと思う……」

「それで?」

「それだけさ」

「……? それのどこがこわい夢なんだい?」

 私はそう言った時、ぼんやりとした言いようのない気味の悪さを感じていた。

「僕は夢の中でとても楽しい時を過ごしていたんだ。いつも君と過ごしているのと変わらないと言っても差し支えの無い時間をね。目が覚めるまで、それが夢だとはそれこそ夢にも思わなかったさ。もし僕が、例えばポーの『早すぎた埋葬』の主人公の様に急に意識を失ってしまうというような発作を持っていたのならば、おやいったいいつの間に気絶してしまったのかしらなんて思ったかもしれないね」

「……」

 私はムッシュの言葉に沈黙しか返さなかった。

「さて、そこで問題だ。私が今いるここは……、いいや。君が今見ているのは、現実かな。それとも、夢だろうか――」

 ――そこで私の目は覚めた。






 I thank the great Poe.

     Kimura Naoki


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る