デストロイエンジェル
零時桜
デストロイエンジェル
プロローグ「天使との邂逅」
プロローグ - Ⅰ
一言で表すならば「得体の知れない何か」。それ以外の表現が思い浮かばなかった。
醜く声を上げ、口の端から溢れんばかりの涎を流し、僕を凝視する四足歩行の存在。怪物、化物、モンスター。そんな陳腐な言葉では言い表せない。そう、得体の知れない何か。僕を捕食しようとその目を光らせている。
どうしてこのような状況に陥ってしまったのかは分からない。いつものように家を出て、いつものように高校へ行き、いつものように授業を受け、いつものように放課後を迎えた。
唯一いつもではなかったのは、アルバイトの時間が少し長引いたこと。帰りの夜の道を歩いていたら、コイツにいきなり背後から襲われた。幸いすぐに距離を取ったため怪我はしていない。それにこの図体、走って逃げれば済むかもしれない。
だが、思考を超越する圧倒的な恐怖の前に、僕はただ立ち竦んでいた。
次の瞬間。奴は再び僕を目掛けて突進してきた。ここは狭い路地。左右のスペースもほとんどなく、隠れる場所もない。
「だッ、誰か、助け……ッ!」
気づいたときには身体が勝手に動き出していた。奴から遠ざかるように走る。が、奴は僕の足では到底逃げ切れないようなスピードで猛追してくる。振り返っては駄目だと分かってはいても、どこまで差し迫っているのか確認せざるを得ない。奴と目が合った。動物で例えるならば熊のようにも、大きな犬のようにも見える。でも現実のそれらとは似て非なる存在。
僕のすぐ背後まで、その黒い影は迫っている。もう、走るのも限界だ。
瞳をぐっと閉じ身構えた、刹那だった。
「――見つけたわ、「ヒドゥン」。せいぜい苦しまないように殺してあげる」
凛と澄み切った声が駆け抜ける。
思わずその声を追って、視線を彷徨わせてしまう。
声の主が躍った。
髪も、衣服も、肌も。全てが純白で。身に纏ったドレスワンピースの裾を揺らすその姿は、絵画の中で美しく輝く、天使のようだった。
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