022 予選会準決勝 カシス対フローラ戦③

 予選会の観客席に戻ると生徒会長のカシスと幼なじみのフローラの戦いはほんの数秒だけ進んでいた。戦況は五分五分と言ったところだろうか。僕は元いた席に戻って時魔法を解いた。


 高速の剣を繰り出すフローラ。それを受け流しながら精密の剣でピンポイント攻撃を仕掛けるカシス。


 二人から受けた実戦訓練の成果もあり二人の動きもちゃんと見える。自分ならどう戦うかもイメージできる。

 

 だからこそ感じるモノがあった。カシスはフローラが参戦することをなぜあれほど嫌ったのだろうか。僕は千年木であるリセ様にたずねた。


「リセ様。戦いは互角に見えますが、動きの激しいフローラの方がカシスに比べて消耗が激しいですよね。この試合はカシスが有利ってことでしょうか」


「今の戦いを続ければそうなるですう。でもフローラは何か隠しているですう」


「既に人間離れした戦いのように見えますが・・・」


「今にわかるですう」


 激しい動きで攻撃するフローラは疲れが溜まってきたのか、肩で息をしはじめた。対するカシスは美少年顔を崩すことなく涼しい顔をしている。


「フローラ。キミ、僕には奥の手を見せてくれないんだね」


「あら、カシス。何のことかしら」


 二人の剣を交えながらの会話もちゃんと聞こえる。これも実践訓練の成果なのか。集中力が格段にアップして感覚が鋭くなっているのを自覚する。


「それでは僕に勝てないよ。体力だって削られる」


「そうね。カシスもずいぶんと成長したものだわ。タトが戻ったことだしそろそろ本気をだそうかしら」


 フローラは戦いの最中、一瞬タトの方を見て笑った。


 ・・・。


 聖女ティア様とリセ様、三人で時魔法を使って時を遅らせ、観客席を抜け出したのがバレている。あっちでは数日にわたる修行だったか、こっちではほんの数秒だぞ。


「僕もなめられたものだ。タトはそんなことをしていたのか」


「あら逆よ。このままでは私にもあなたにも勝てないと感じたからじゃないかしら。あんなにボロボロの姿になって、どんな修行を積んできたのかしら」


 あっ。しまった。実戦訓練のせいで服が泥だらけの上にあちこち破れている。僕は聖女ティア様と顔を見合わせた。鋭い、フローラ。あの一瞬でそこまで見抜いたか。


「それでは心置きなく私の新技を披露しようかしら」


 そう告げたフローラの体が三つに分裂した。


 高速攻撃が三人分に・・・。ただの幻術魔法なんかじゃないぞ。実体のある攻撃がカシスに襲いかかっている。


 一人で互角、三人分なら到底勝ち目もない。余裕をかましていた端正なカシスの顔が歪む。三人になったフローラの攻撃を何とか避けてはいるが分が悪い。


 いったいどうなっているんだ。フローラは三つ子なのか。って、そうじゃないことは幼なじみである僕が一番よく知っているのだが。


 カシスは苦し紛れに雷(いかずち)を轟かせ、氷(ひょう)を見舞う物理魔法を展開するが、三人のフローラはものともせずにそれを弾き飛ばしてカシスに襲いかかる。


 分裂しても強さが全く衰えていない。うそだろー。


「これで終わりね」


 カシスに対峙していた正面のフローラの剣が彼の首元を捉えて止まった。がっくりと首をうなだれるカシス。いつの間にか背後から襲いかかっていた二人のフローラが消えている。


「まいったなー。僕の負けだ」


 首をあげたカシスの顔は清々しいほどのイケメンに戻っている。


「見直したわ、カシス。私もうかうかしていられないわね」


「そうかな。そう言ってもらえると、キミを目指して修行してきたかいがあったってものだな」


 照れながらあごをかくカシス。イケメンはどんな動作も様になっている。


「次の決勝戦。勝っても負けても卒業したら、カシス、あなたと組むことにするわ」


「僕のパーティーに入ってくれるのか」


「あら、お望みじゃなかったかしら」


「もちろん」


 カシスの顔が華やぐ。僕は千年木様に言われた言葉を思い出していた。仲間を探せ。旅にでよ。気心が知れたフローラならきっと良い仲間になってくれると思ったのに。


「タト、当てが外れたみたいな顔をしてどうしたです。告白に失敗した男子中学生みたいですう」


 子供みたいな姿をしたリセ様が横でおどけてみせる。


「リセ様、フローラは僕の幼なじみで同級生ですが、僕にはそんな気持ちなんて全然ないですからね」


 僕は聖女ティア様の顔をチラッとうかがってから反論した。僕は聖女ティア様のナイトとしての役割がある。フローラのことで心を乱している訳にはいかないのだ。

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