17話 死闘!
いよいよ第2のボスとの戦いが始まる。ステージには張り詰めるような空気がその場を満たしていた。そこに、お互い睨み合う二匹。
フゥ……笑って力まないようにしないとな。一瞬でやってしまったら、わざわざアルティメット感出した意味が無くなる…そうなれば今までの努力が水の泡だ…それだけはダメだ!!ちゃんと死闘を演じないと。笑わないように、笑わないように…。
実際問題、ステータス的に見ればスラスケでも充分にこいつに勝てる。もちろん普段のステータスであればの話だ。MPがゼロになってしまった今、ステータスが著しく落ちているため、1人で戦っていれば普通に殺される。MPがなくなれば元のステータスの10分の1程のステータスになるためスラスケは今ファイアースライムくらいしかない。人間で言うなら、華奢な女の子状態なのだ。
「行くぞ!!」
そう言ってMPを使って黄金の輝きを纏った触手を思いっきり展開させて四方八方から
「なに…!? あれを避けるのかぁぁあ…!!」
「……ッ……!!」
スラスケの勢いのある実況に思わず笑ってしまい、力んだ反動で触手の一本が制御不能に…そしてそのまま
あぶねぇ………!!冷や汗かいた。
「
あぁ。ほんとにかすり傷で済んでよかったよ…
こいつの個体特性『虫』があったことを覚えているだろうか?その効果は触覚と複眼で、相手の動きを素早く察知できるというものだ。それのおかげで暴走した触手を目で捉えて避けることができた。
「クソ…!当たらない……」
「スラオ…逃げてくれ…」
「置いていけるわけないだろ!!」
我ながら名演技だ。展開した触手をそのまま
考えながら触手をあやつり、10本に1本の割合でかすらせる。こいつは状態異常がなければ全く怖くない。一つ厄介だとすれば地味に高い素早さと、すばやく知覚するとこだろうか?でもまあ、明確な攻撃スキルを持っていないために状態異常さえなければまず負けることはない。
「ああもう!!…鬱陶しい!!」
かなり苛立っている。突風のスキルを使って捌ききれなかった触手を弾き、かろうじて耐え忍んでいる風を装っているが、もちろん僕の策略だ。さて必殺技はどうすっかな………
種族『
HP:637/1532 MP: 247/452
もうかなり削ったな。あ、ふと思ったけど、触手が手足のように使えるのって普通にすごくね?何本だ?100もないくらいだけど、それでも感覚で全て操れてる……シンプルにすげぇ。
「…すごいな……押してる…お前…強かったんだな…」
「……ぐ…っ…」
「どうした!? 大丈夫か!!」
「もう…時間がないみたいだ。次で決める!!」
「だ…大丈夫なのか…? いざとなったら俺を置いてにげろ…!」
なんちゃって。もちろん嘘。MP消費はクソほど多いけど、ストックがあるからね!あと1週間くらいは連続してつかいながら戦える。しかし…スラスケって僕が思うよりいい奴なのかもしれない。いつもはお調子者キャラだが、いざ命の危機になると真っ先に自分を切り捨てることを指示できるんだもんな。
そう思いながら自身の数少ないスキルを確認する。
『毒霧 硬化 撃進 鞭打ち トゲ』
このスキルの中で必殺技を考えたが、いいコンボを思いついたのでそれで仕留めることにした。
「行くぞ!!はぁぁあああ!!」
触手で攻撃し続けていたのを一旦やめて、超速の『撃進』で
「ばか!! そんな不用意に突っ込んだら……!!」
スラスケは目で捉えることができたようだ。だがしかし!安心しな!こいつに攻撃のスキルはない!もし食らったとしてもステータス的にもダメージはほとんど通らない! ふ、ここからはあえて言葉に発して今からすることを説明してやろう!
「目の前まできたところで…残した触手で踏ん張って止まる!!」
「な……っ!?」
元人間の俺にとっては昆虫の表情などわかる訳もないが、蛾王が驚愕の表情を見せた!!気がした!!!!!
「そこに目眩しでMPをいつもの3倍使った特濃の『毒霧』!! そして触手2本でお前を捕らえ、一旦スラオのとこまでさっがーる!!」
『撃進』を器用に後ろ向きに使い、エビのようにして元のポジションまで下がった。
「そしてそして…特大の『トゲ』を1本セット完了! かーらーのー『硬化』!!」
ボア狩りで見せたような形態にスキルを使って変化する。
「最後に…『鞭打ち』で地面を叩き、加速!!さぁああ!!くらえー!!!必殺…『スーパーストロングハイパワーデミグラス』ッッッ!!!」
またしても黄金の閃光が走り、黄金の弾丸と化したスラスケの体が蛾王に直撃する。その時の守備力はなんと1144! 蛾王の守備力261を遥かに超えるその硬度は、紙を裂くよりも簡単に蛾王の体を粉砕した。
「す…すげぇ…」
スラスケが一瞬の出来事に圧倒されて思わず心の声を漏らした。
一方スラオはボス戦を終え、アルティメット形態Ver.1を解いてスラスケの元に戻る。
「勝ったぞ!」
「なんだ…あの格好いい技…すごいなスラオーー!!」
「だろ〜」
一瞬ためを置いたあと、がらにもなくスラスケがいつもとは違う真剣な空気でゆっくりと話し始めた。
「俺を置いて行かずに倒してくれてありがとう……」
何これ……クソ違和感。
「…や、やめろよースラスケらしくないぞ! 仲間だろ? 置いていけるわけないじゃないか」
なんか、こうなるのを求めてたけど、実際こんな真剣に言われると照れくさいな…しかも、スラスケがめちゃくちゃ良い奴だってわかったし…なんか、騙したことに罪悪感を感じるんだけど…
「ははは、スラオって俺のこと馬鹿だのなんだのといってくるけど本当はいいやつなんだな。今回は本当に助かった……」
やめろやめろやめろ!!なんか…胸の奥がムズムズするから!!違和感でしかないから!!
「ま、まあな…」
2匹はレベル上げの儀式のように体をペチペチとくっ付けあった。
そうして、スラスケとスラオの第二の魔王討伐は終わりを迎えたのである。
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