第12話 それはまるで…

 20年ぶりに人間(の女の子)をみた僕は、壮絶な葛藤の末、バレずにやり過ごすことを決めた。


 「あれ? なんか様子変じゃね?」


 「俺に聞かれても………見えねーし」


 そうだ、駆け出しがこんな道から外れた場所にくるはずがない。あいつら、女の子を襲おうとしてるんだ。助けないと。


 「スラスケ、やっぱり作戦変更だ。闘うぞ」


 「は? 馬鹿なのか?? 俺より強いんだぞ?」


 え、スラスケがまともな事言ってるよ………? って、おいっ! なんでお前基準なんだよ。僕の方が強いだろ? もしかして魔法使えるからって僕のこと下に見てんのか?!


 「お前いつから俺より強くなった気でいるんだよ」


 「え? 当たり前だろ。スライムは魔法使える方が偉いんだよ」


 へースライムってそんな価値観してるんだ。20年生きてきた中で初耳ですぜ。っておい。


 「線香花火程度しか出せねーくせによく言うわ」


 「なんだ? そのかっこいい名前は? いいこと考えた! 俺の火の魔法の名前は『線香花火』にする!」

 

 「好きにしろ………。それより、指示出すからその通りに動いてくれ。今の僕たちに勝てない相手ではないから」


 「まあ、いいだろう。ちゃんとわかるように指示出せよ」


 なんだこいつ?! 魔法使えるからって急に上から目線?!


 「次進化した時覚えとけよ………」


 「俺は進化しねえ」


 「いや、しろよ。魔王倒すんでしょうが」


 2匹は穴から離れ、二手に分かれて冒険者のいるところへ向かった。ちょうど3人を挟む形になった。

 そして俺の格好は相変わらずきもい。多分夜この姿を見かけたら失神する………まあそれは置いといて。


 やっぱりな、あの男たち、女の子を狙ってる。ちょっとだけ遅れて出て行って、女の子の裸を拝むという手もあるが、僕は紳士だ。しかし………生まれてこの方女の子と手を繋いだ事もなければ、彼女ができた事もない。見たい!! けど………初めての体験がこんな道徳心のかけらも無いようなやり方でいいのか。

僕は紳士に生きると決めたんじゃ無いのか?! そうだ!!  欲望に負けるわけにはいかない!





 ……………………ちょっと遅れていくか。




 その後、女の子の服が脱がされた後にスラスケに火球を顔面に当てるよう指示し、男2人が怯んだ隙に、僕の触手を男どもの口に突っ込んで窒息死させました。まだあの時の触手に触れた舌の感覚が消えません。男が触手に侵されるという誰得な感じの絵面になりましたが、無事女の子も救い出し、人生初の裸もしっかり見れて、経験値も大量に入り、そして、女の子からは救世主として感謝されました。


 それで、結局。僕もまだ健全な男子高校生だったわけです。めでたしめでたし。女の子の特徴が知りたい? だめです。そんな事したら確実にBANくらいますんで。


 その女の子と別れ、女の子の服が破けていたので男たちの装備を脱がし、それは女の子に譲り、2匹は1人ずつ男を食べた。そして、穴の付近へと戻ってきた。


 「なあ、スラオ。なんで早く助けなかったんだ?」


 「ふふっ、僕にもいろいろあるのさ。まぁ、あれも作戦のうちだ。無事に勝てたからいいだろ」


 人間の女の子の裸を見たかったからなんて言えるかよ。


 「なんだよ気持ちわりーな。てっきり人間の雌の体を見たかったのかと思ったぜ」

 

 「………………」


 「男を殺した時のやり方、マジでキモかったぞ。もう2度とヤンないでくれ目に毒だ」


 「………………」


 「てか、お前もよく口の中に突っ込もうとか思ったよな」


 「………………」


 「俺だったら、絶対無理だわー」


 「や………やめてくれーー!!! その話はしないでくれ。思い出したく無いんだ!!!」


 触手に残る柔らかい舌の感触………僕は、また一つ大人に近づいた。

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