陥落

 新妻はようやく新居に馴染んできてくれたらしい。階段から落ちて痛めてしまった足も治りかけた頃、初めて自分から近寄ってきた。


「名前」

「うん?」


 こちらを見る大きな眼は凪いでいる。名前と同じく小波一つない漆黒の湖面が二つ。


「名前、知らない」

「ああ、僕とした事がうっかり。自己紹介が遅れたね。僕の名前はフリーデンスリートベルク。長いから好きに略していいよ」

「べるく」


 口内で飴を転がすように名前を繰り返す。イイコイイコと頬を撫でると、背中に細い腕が回された。


「飽きたら殺して」

「僕に任せて」


 バラバラになった君の心は全部拾い集めて繋げて永遠に僕のもの。

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