閻魔童子と太陽の王女

鳳菊之介

序章 奴国の夜明け編

輪廻

ある雨上がりの朝。

燦々と輝く太陽の元、大きな屋敷の庭で二人の幼き姉弟はある光景を目にした。


「父上ー!これを見てください!」


「ください!」


「どうしたのだ?アマミコ、メイよ」


姉の名をアマミコ。

弟の名をメイといった。

いずれも太陽の国と称された奴国なこくの王である父——イサナの子供達である。


「蜘蛛の巣に白蝶が引っかかっております!」


アマミコが指差していたのは庭木の枝に貼られていた大きな蜘蛛の巣でそこには哀れにも囚われてしまった一匹の白蝶とそれを捕食せんと近づく蜘蛛の姿があった。

「蜘蛛という虫は自らの体から糸を出し巣を広げ引っかかった獲物をムシャムシャと食べるのだ」


「蜘蛛が白蝶を食べて……むごい!」


「ひどすぎます!」


アマミコは耐えられず蜘蛛の巣を裂き白蝶を救い出そうと手を伸ばすも、イサナに腕を掴まれ止められてしまう。


「これこれよさんかアマミコ」


「しかしこれでは白蝶があまりにも可哀想です!」


「かあいそう!」


「我々が草原の動物や海の魚を食べるのとなんら変わらん。ほれ見てみなさいこの蜘蛛の膨れたお腹を。きっともうすぐ卵が生まれるから尚更栄養が必要なのだろうな」


イサナは子ども達にも分かるよう蜘蛛の腹を指差した。腹の中には何十もの蜘蛛の卵が詰まっているのだろう。


奴国なこくには生々流転せいせいるてんという教えがある」


「せいせい?」


「るてん?」


アマミコとメイは顔を見合わせ首を傾げる。


「生き物は他の生き物の命を食べることで生きられる。そしてその生き物が死して土へ還った後も草木の栄養となり新たな命を育んでいく。それが生々流転せいせいるてん。命を繋ぐには命を喰わねばならぬという教えのことだ」


「お前達もいずれは俺の後を継ぎ奴国なこくを築いていくのだ。人の上に立つ者としてその教えを決して忘れぬでないぞ」


アマミコとメイは白蝶が蜘蛛に食べ尽くされ、残骸となるまでジッとその光景を見つめていた。


時折捕食する蜘蛛の様子に目を背けながらも懸命に見続けた。


父が言ったことを少しでも理解したかったのだろう。


食事を終えた蜘蛛はお尻から粘着質な卵を産み始めた。


「さて二人共、屋敷へ戻るぞ。朝食の時間だ」


死んでいく命と生まれる命。


こうして命はさらに次の世代へ繋がれていく。


これより語られる歴史に証人はいない。


しかし戦と陰謀がひしめく中で確かに彼らの物語は存在した。


これは争いの絶えなかった暗黒の時代を懸命に生きた者達の命の物語である。


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