第15話

「本当に、なにか一つでも無いの。将来やりたいこととか。なりたいものとか」


 一三七九機目の紙飛行機を飛ばしながら、ソラシドが言った


 どれだけの紙飛行機を見送ったところで


 将来などという漠然とした未来に追いつけるわけもない


 なにも思いつかないから、ぼくは正直にそう言った


 ソラシドにはそれが、どうやら予想外だったみたいで


 すごい勢いで振り返ると、ぼくの目の前にやってきた


「あれだけ時間があったのに、本当に、なにも思いつかないの?」


 彼女の目は蒼くて、綺麗で


 黙っていると吸い込まれそうで


 ぼくは、なにかを言わずにはいられなかった


「なにになるかは決めてない。でも……」


「でも?」


「……なんでもない」


 本当は、その先に続く言葉は


 ずぅっと昔から決まっていたけど


 言葉にするつもりが、言葉にならなくて


 どれだけ待っても、言葉にならなくて


 ソラシドは美しく小さいため息を「ふっ」と吐いて


 「疲れた」と言い捨てるなり、ぶっ倒れるように眠ってしまった


 いつしか空には、思い出したようなにぶい藍色が広がっていて


 少しだけ、吹き抜ける風が肌寒かった


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