(二)‐21

 母はそれを聞くと即座に立ち上がり、桂瀬さんに殴りかかった。

「何ですって! まさかうちの財産目当てじゃないでしょうね! この泥棒猫! すぐ出て行ってちょうだい」

 両手で桂瀬さんをたたき続けようとする母を、近くにいた小ヶ田葬儀社の人が止めた。でも俺は動けなかった。まさかのできごとがまさか再び起こるとは思わなかったからだ。まさか父に愛人がいたなんて。……しかし待て。……ということは、桂瀬さんの隣にいる小学生の女の子は、俺の妹ということになるのか? 父は仕事人間ではあったが、家に帰らないタイプではなかった。残業などはせずに家に帰ってきて夕食はだいたいいつも自宅で取っていた。だから、まさか父に愛人がいることなど、想像だにしていなかった。怒りというわけではないが、父の行いにショックを受けたのは母だけではなかった。ちなみに隣の妹も、瞬きせず、目の前の自体を眺めるのが精一杯のようであった。

 親子はその後すぐに帰って行き、通夜は葬儀社の方々のおかげで無事に終えた。


(続く)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る