第131話 小林泉という男⑧
「愛斗はねぇ…。」
菅ちゃんは軽く唇を噛みながら、その写真たてを小林から受け取った。
そこには、包み込む様に愛斗の肩を抱く洋子と菅ちゃんの姿が映っている。愛斗はほんの少しだけ首を前に出して照れた様な笑顔を見せている。
その愛斗を、菅ちゃんは親指を使って2,3度なでた。
そして小林へと顔を向けた。
「愛斗はねぇ。実は僕達の本当の子供ではないんだ。養護施設から引き取った子供だ。」
小林は大きく目を見開いた。
「だから僕達は、これから本当の家族になる練習をしている所なんだ。
本当の親、本当の子供…。簡単な事ではないだろう。でも、僕達はそういう家族なんだ。」
真冬の空気の様に、真っ直ぐに澄みきった菅ちゃんの言葉だった。
「だから決して子供の誕生を君に内緒にしていた訳ではないんだ。」
菅ちゃんは優しく笑いかけた。
「だったら…。」
一瞬の沈黙の後に小林が出した震える声を聞いて、スタッフが驚いて顔を上げた。
「だったら、なおさらお祝いをさせて頂かなければいけません。僕はそう、愛斗君の為に。」
そして真っ赤な目をしたまま、震える息を大きく吐くとこう続けた。
「実は僕も、親の無い養護施設児童でしたから。」と。
今度は菅ちゃんが驚いて顔を上げた。
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