第112話 運命①

それ以来、僕はほぼ毎日頭のどこかで、いや心のどこかで彼の事が気になって仕方がなかった。

幾度となく、「会いに行ってみようか?」と思ったりもしたのだが、その度にあの白い十字架を思い出し「僕のようなものが行ける場所ではない。」と、畏れ(おそ)にも似た気持ちでいっぱいになり、なかなか足を運べないでいた。


「洋子の願い、写真集、そして養護施設。」


…まるでジクソーバズルの様だ。世の中は不思議な巡りあわせで満ちている。



ヴェールをかぶり、その優しい笑みをたたえた女性は、静かに門を開け私を招き入れた。

「わざわざお越し頂きまして…。手紙を書かせて頂きました飯島と申します。」

通された門を通り、もともとは真っ白であったであろう建物の前に行き着いた。

入口から入るとそこはチャペルになっており、正面には十字架にはりつけにされたイエスキリストが見える。僕は知らず知らずのうちに深く頭を下げていた。

「遠い所、ありがとうございます。」

シスターのヴェールが静かに揺れた。

「少しお話し致しましょうか?」

シスターはゆっくりと歩き始めた。

こんなにも静かな空間が世の中にあるものだろうか…。厳かな空気が流れている。

僕たちはチャペルの中心の、そのまた中心へと進んだ。

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