第83話 苦悩②

「尾脇」と聞いて、真奈美はゆっくりと顔を上げた。

「尾脇さんがあの会場に?」

真奈美はひどく驚くと菅ちゃんをじっと見つめた。

「あぁ。」

菅ちゃんは憐れむ様な目で、真奈美を見つめた。

真奈美は小さく頭を振ると、うつむいたまま、瞳を伏せた。


「こうして今、菅原社長の様な方とお話できる様になったのも、多くの方に私の名前を知って頂ける様になったのも、元をただせば、全ては旦那様のお陰なのです。」

その一言一言が、真奈美の父親への感謝の気持ちで溢れていました。



「全てが変わってしまったのは、それから2年も経たないうちでした。その頃、町はある噂でもちきりでした。「旦那様が雪野家を捨てて、若い女子(おなご)と所帯を持つ」と…。」


達夫がギョッとして真奈美を見たのに菅ちゃんが気付かないはずはなかったが、菅ちゃんはそれにかまわず話を続けた。


「小さな町です。噂は隅々まで広がっていました。“その相手が、旦那様がお勤めであった大学の教え子である事、20も歳が離れている事、そして、彼女のお腹には新しい命が宿っている事。”その噂が真奈美さんの耳に入らなかったはずはありません。彼女はとてもお父さんっ子でしたから、色々な意味で心悩ます事が多かったと思います。」

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