第38話 別れ⑧
その時の私の気持ちは上手く表現できません。ある意味私の命より大切な祖母が助かったという喜びの反面、一人の大切な人生を台無しにしてしまったのですから。とにかくすぐに監督さんと連絡を取り、その日のうちにお会いしました。
監督さんは私の話を黙って聞いて下さいました。私が「自分は手に職をつけて、安定した生活を送れるのに、その方には全てを失わせてしまい、これからの自分の人生はその人の不幸の上に成り立っていくのかと思うと申し訳なくて、いてもたってもいられないので、どうかお詫びだけでもさせて欲しい」と話すと監督は一言、「まずは良かったじゃないですか。」とおっしゃって下さいました。
「あなたにとって、おばあ様がご無事で何よりだったじゃありませんか。」
と。それを聞いて私は、こわばっていた体中の力がぬけた様な気がしました。監督とお会いするまで、自分だけが普通に生活が出来、そして祖母にも恩返しができるという事実に対してとても罪悪感を持っていましたから。
監督は「お礼とお詫びをしたい」という私に「今はまだ時期ではないが、そのうちに必ずその場を設けましょう」とおっしゃって下さいました。「いずれお詫びではなく、それが感謝に変わるその頃に…」と。
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