第37話 別れ⑦

以前からあまり母と祖母の関係は上手くいっていなかった様で母は祖母の反対を押し切って結婚して以来音信不通だったそうです。役所で私の身寄りを調べた所祖母と連絡が取れ、祖母が私を引き取りに来たのでした。私にとってみれば、他人同然の祖母と生活を共にするのはかなり抵抗もありましたが、それでも養護施設に入るよりもはという思いが正直言ってありました。祖母は若いときに夫を亡くし、その後再婚をして別の家庭を築こうとしていました。丁度その時に私を引き取る事になった訳です。祖母達の家は小さな家でしたから二人の会話は良く聞こえてきました。そのうちに私を預かった事で祖母とそのご主人の喧嘩が絶えなくなり、ある日彼が祖母に「この家庭を守るのか、あの子を取るのかはっきりしろ」と言う声がしました。祖母は「私にとってあなたはとても大切な人だけれど、孫を捨てる訳にはいきません」と言ってその男性との別れを決めました。本来ならば置いて貰えるだけでも充分でしたのに、祖母は働いて、働いて私を高校に行かせてくれました。手に職を持たなかった祖母は安い賃金でしか雇ってもらえず、「道子、この先何があっても生きていける様に手に職だけはつけておきなさい」と常々話しておりました。そんな祖母の願いもあり、卒業後看護学校に通う事になりました。色々な面で私なりにお返しができるかなと思い始めた矢先にあの事故は起こりました。もしあの時に祖母に何かありでもしたら私は一生後悔しても後悔しきれなかったと思います。どうしても助けて下さった方にお礼が言いたくて、あの日警察に尋ねに行きました。警察では「名前は教える事ができないけれど」言って先生がいらした大学名とそれから監督のお名前と連絡先を教えて下さいました。「何故本人ではなく監督さんの名前なのか?」と尋ねましたら、先生がプロの野球選手を目指されていた事、今回の事故によって怪我をされ、もしかするとその道が閉ざされてしまうかもしれないという事を聞きました。そして「今、彼にお礼を言いに行くべきかどうかは監督さんと相談なさい。」と言われました。

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