第30話 伴侶⑨

ほどんど泣きそうになっている。

 「真面目にお付き合いをさせてもらっています。彼女にはまだ話してませんが、来年には結婚も考えています。でもその前に先生のご意見も伺いたいと思っていました。おかしな形になってしまいましたが、丁度いい機会ですから。先生、この話、どう思われますか?」

 どうもこうもないだろう。僕が最も信頼を寄せている男が、優しさも才能も持ち合わせた女性と結婚する。しかも彼女は僕の友人でもあり、そして、仕事上欠かせない大切なパートナーだ。これで僕はこれからも菅原家の家族とも遠慮なく付き合っていける。僕にとってもこんな嬉しい話はない。

 「菅ちゃんが、僕に秘密の彼女を作っていた事は、僕にとっては許しがたい。」

僕は、役者になったつもりで、少々きつい視線を向けた。

「ただし…。その相手が洋子だという事で、この事全てを水に流そう。菅ちゃん、本当に素晴らしい女性を選んでくれたよ。そして、よくぞ、よくぞ洋子という素晴らしい女性から愛を勝ち得たもんだ!。」

 そう言って立ち上がり、強く彼と抱きあった。

 「ありがとうございます。僕らにとって最高の褒め言葉です。」

 そして彼は、深々と頭を下げた。二人の愛に乾杯をして、その日は長々と幸せな時間に身をゆだねた。

祝杯のビールを飲みながら、「そうか、菅ちゃんもとうとう生涯の伴侶を見つけたか…。」自分の事の様に、いや、それ上に感慨深い気持ちになっていた。そしてどこかで、「いつか僕にもそんな相手が見つかる日が来るだろか?」とぼんやりと考えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る